投稿者 H.J 日時 2022年12月31日
前科7犯、借金50億円、撮影現場では現在で言うところのパワハラを超え部下に暴行を働くAVの帝王。
幾度も逮捕されても、国は違えば罪にならないという理由を添えて「罪の意識はない」と断言する。
裁判となっても実刑を免れてきたわけだが、そのタネ明かしは賄賂(に限りなく近い行為)である。
こういった面からも無法者な一面を持つ人物とも言える村西とおること草野博美氏。
裁判中にAV監督デビューしたり、個人的な復讐のために真珠湾上空で破廉恥な行為+復讐を完結させる落とし物をしたりなど、破天荒なエピソードも目立つ一方で、
英語教材セールス売上げ日本一位を樹立したり、無一文時代に息子を最難関小学校に合格させたりなど、純粋に尊敬できるエピソードも両立する。
読書中も読了後もエピソードほどネガティブな感情が湧かない不思議な人物である。
これについては著者の本橋氏の表現方法が上手い事はもちろん、草野氏の生い立ちから転落人生までによる同情もあるかもしれない。
ただ、それだけではなく、本書中でインタビューへの受け答えを見る限り、草野氏のポジティブさも大きく影響があると思う。
逮捕されても、借金して血の涙を流すほどの極限のストレスのエピソードを語る時も”過去の話だから”という理由以上にポジティブさを感じさせる。
笑い話に昇華しているところもそう思わせる理由かもしれない。
そのポジティブさとは別に、性という本能的な部分を仕事にしたり、後先考えずに個人的な復讐を実行したり、「ナイスですね」などの直感的な言葉選びのセンスから右脳的な感覚に優れた人かと思いがちだが、左脳的な使い方にも優れている様に感じる。
応酬話法における切り返しの引き出しの多さや的確さだったり、それを可能にする日頃からの訓練(日常のイメージトレーニングP88)で言語化能力に長けていることはもちろんのこと、
貯めてきた知識を利用してピンチを乗り越える姿などからそう感じた。
例えば、裁判になった時に実刑を免れたエピソードとして、検察の大物人物にチケットを譲り関係を保つことで自分の優位に進めたというものがある。
草野氏がAV監督だと知って近づいた検察の大物人物。当然、芸能関係筋から手に入れられると思ったのだろう。
しかし、手に入れたチケットは芸能関係筋から入手したものではなく、ダフ屋から購入したものである。
日頃からの関係性を築いたことでピンチを脱したというエピソードだ。
AVの帝王という権威が有利に働いたエピソードである様にも思えるが、それはきっかけでしかない。
その裏にある日本における公訴権の知識を持ち、弁護士よりも検察官の重要ポジションに座る人物への根回しという保険が利いているのだ。
これは右脳による直感やイメージによる行動というよりも、左脳による論理的な行動である。
何よりもエピソードを回想するときに理由を付けているところから、左脳的な使い方に長けているように感じた。
冷静に見てみるとポジティブで意外にも左脳的な使い方に長けている印象を持ちつつも、やはり破天荒なエピソードから脱却できない部分もある。
諦めるという選択肢がなく、自分の信じる道を突き進む。
その中で出会った人を巻き込んで振り回して生きていく。
ということが本書からも伝わってくるが、現在の奥さんとの子供が生まれてから父親としての草野氏の心境の変化にも注目したい。
もちろん、最初の奥さんとの間に出来た子供の時は若さもあり、自分の道を一直線に進んでおり、現在の奥さんとの子供の時は年齢的にも40代で借金を抱えている状況と大分異なる。
ただ、それを差し引いても、現在の奥さんとの子供には、立ち食いそば屋やタオル屋などを始めたりアンダーグラウンドな仕事への背徳感が垣間見られる。
更には、借金で苦しいはずなのに息子で銭を稼がないという信念のもとで仕事を断り続けたエピソードにも、視点を変えるとAVの帝王と息子をつなぎ合わせたくないという気持ちもあるのではないかと推測できる。
やりたいことをやり続けて、家族よりも仕事を優先し、時には巨万の富を築き、物価も今ほど高くない時代に毎日ランチに5千円をかけるなどの豪遊し続けた稀有な人生。
その人生の中で、金を失い、部下を失い、命すら失いかけた中で、大切な家族が傍にいるという多くの人が手に入れる幸せを手に入れた。
その幸せだけは手放さないという草野氏の心境の変化を感じた。