投稿者 mkse22 日時 2020年12月31日
「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考を読んで
本書は、アート思考を説明した本ではある。
アート思考とは『自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだすための作法(Kindle の位置No.103)である。
本書ではその説明をアートに対する既成概念を一つずつ丁寧に壊しながら行っているため、
読了後には、あたかも推理小説を読んでいるような爽快感がある。
私にとって印象的だったのは、アート思考は①自己との対話を通じて世界をみることで、②その思考を深めるためには他人の力が必要であることだ。
以下、この観点からアート思考について検討してみたい。
①については、アート思考ではまず、自身の興味や好奇心や疑問を出発点として世界を見る。
世界を見る方法として、2つの問いかけ「どこからそう思う?」「そこからどう思う?」の有効性が説明されている。
ポイントは、自分が世界を見ているのかを考えることにある。ここでは、他人がどのように見ているのかは考慮の対象外である。あくまでも自分を中心にひたすら自問自答するのである。
さらに、ここでいう世界を見るとは、視覚を通じて世界を見るという意味ではない。
五感すべてを通じて世界を見るというべきだろう。なぜなら、アート思考のアートの定義できないからだ。アートが定義できない以上、アートの対象を限定することができず、したがって、対象は世界をせざるをえず、さらに、アートの対象を把握する方法も限定することができないため、五感とせざるをえないからだ。
本書の中でアートの定義が都度提示されるが、読み進めていくうちに、それらがどんどん壊されていく。
例えば、アートとはリアルさであるという考えが、ヨハネス・フェルメールの牛乳を注ぐ女や
ヘダ・ブィレム・クラースのアビニヨンの娘たちに、視覚的な美しさであるという考えが、デュシヤンの「泉」に、そしてイメージの具体化であるという考えがポロックの「ナンバー1A」により、それぞれ壊されてしまった。
以上より、アート思考とは、自分の五感を通して感じたことを自らの言葉で世界を表現することである。
そこには自分しかできない経験を言語化しているため、オリジナリティがあり、さらに自分の言葉で表現しなおしている意味で世界を自ら再構築しているともいえる。
ここまでで、アート思考を実践するには、他人は必要のような不要のように見える。
アート思考の特徴は自問自答のため、一人で実施可能な気がするが、
本当に他人は不要なのだろうか。
ここで②である。
私はアート思考を実践するためには他人が必要と考える。
なぜなら、一人で自問自答を続けることは困難だとおもうからだ。
どうしても自分の思い込みや知識不足により、すぐに自問自答が止まってしまうからだ。
自身の思い込みや知識不足を解消するためには、どうしても他人との議論が必要である。
ただ、ここでいう議論とは、相手を言い負かすような類のものではない。
自分自身の間違いや思い込みに気づき、それらを修正するための場である。
したがって、いわばディベートのような白熱したものにはならず、淡々と自分の意見を言って
それに対して、どのように感じているのかをフィードバックしてもらうような場になるだろう。
このような場を用意するためには、少なくとも、参加者には、相手がどんな意見を言ったとしても
否定することは許されないといったルールを飲んでもらう必要があるだろう。
どんな意見でも主張することが許される場があって、初めて、自身の本音の意見が言えるからだ。
このように考えてみると、アート思考を実践するには、高いハードルがあるように思う。
現実の社会で実際におこなうことはなかなか難しいだろう。
だからこそ、本書にあるとおり、自身の愛することを見つけ出し、それを軸にして
アート思考を実践する必要がある。
愛するものであれば、他人から否定されようが、それだけではそれを簡単に手放すことはないからだ。
愛するものをみつける。
やはり最終的にはこれが最も重要な点になることを改めて感じてしまった。
今月も興味深い本を紹介していただき、ありがとうございました。