投稿者 mkse22 日時 2021年3月31日
「資本主義と奴隷制」を読んで
本書は奴隷制の起源からその廃止までを資本主義との関係から説明したものだ。
特にイギリス資本主義との関係を中心に分析を行っており、
資本主義が奴隷制や独占を生みだし、さらにはそれらを廃止したという結論を
導き出している。
この結論は私にとって衝撃的だった。
奴隷制は黒人への偏見や差別から生まれたもので、
当時のイギリス人の人権意識の高まりにより廃止されたものだと
漠然と思っていた。しかし、本書ではそれが否定されていた。
奴隷制は単純労働に対する需要といった経済学的要因で生まれたものだ。
しかし、奴隷自体は決してコストパフォーマンスの良いものではなかった。
『富を得ることができないものは食うこと以上に関心を持たず、労働は最小限にとどめようとする』(P17)
『奴隷労働よりも自由民の雇用労働のほうが経済的に有利であることは、奴隷所有主にさえ
異論のないところだった』(P17)
奴隷主から見た場合、奴隷は最低限の労働しかしないうえに、想像以上に管理コストがかかってしまい
それほど利益をだしていなかったというわけだ。
さらに、奴隷のライバルは自由民だった。
『奴隷労働は、自由民労働が豊富に得られるところでは必ずそれよりも高価なものとなる』(P19)
奴隷労働が常に契約労働よりコストパフォーマンスがよいわけではなく、
労働人口が増えたり、熟練労働への需要が高まるにつれて、
奴隷労働より契約労働のほうが優位となる。これが奴隷制廃止の一因につながる。
まとめると、奴隷制は単純労働への需要の高まりが原因で生まれたものだが、
奴隷のコストパフォーマンスは決して良いものではないため、
時代の変化とともに次第に自由民から雇用を奪われ、その結果、奴隷制は廃止となった。
このように考えると、奴隷制は実は過去のものではなく、
現在にも形を変えて存在するのではと思ってしまった。
例えば、非正規労働者だ。彼らは事務や工場作業など、決して高い熟練度が求められていない作業を
主に担当している。単純作業のためキャリア形成が難しく、別の仕事に就く機会が少ない。
コストパフォーマンスについても、近年の人手不足によりアルバイトなどの時給が上がっているため、
決して安くはない。
非正規労働は、非熟練労働を担っておりかつコストパフォーマンスがそれほど良くないという意味で
奴隷制と共通点がある。
奴隷制と異なる点は、非正規労働者は雇用契約を結んでいることだ。
自らの意思で雇用者と契約を結んでいるわけだ。
ただし、本当は正社員になりたかったが、やむを得ず非正規労働を選んだ人もいるはずで、
自らの意思で雇用契約を結んだとはいえ、他の選択肢がないため、
実質的には半強制的に雇用契約を結ばざるを得なかったケースもあるだろう。
このように考えるとより非正規労働は奴隷制に近くなる。
それでは奴隷制と同様に非正規労働を廃止すればよいかというと、そうではないと思う。
非正規労働は労働者視点から見ても、働き方の選択肢を増やすというメリットがあるからだ。
例えば、家庭の事情などで短時間勤務しかできないため、あえて非正規雇用の選択した
ケースもあり、非正規労働を廃止すると、このような人の受け皿がなくなってしまう。
このように非正規雇用は現在の奴隷制というべき特徴がある。
ただし、近い将来、単純作業に対する需要が大幅に減る可能性がある。
なぜなら、各職場にAIやRPAなどによる自動化技術が導入されつつあり、
これらが、人間の代わりに単純作業を実施してくれるからだ。
私の職業はSEだが、そこにも自動化の波は押し寄せている。
SEの作業として、サーバの構築があるが、以前はSEが手動で1台ずつ構築していた。
現在はクラウドサービスを利用すれば、特別な知識はなくてもGUI画面を数クリックするだけで、
サーバが自動的に構築されるようになってしまった。
奴隷のライバルは自由民だったが、非正規労働者のライバルは正規労働者だけでなくAIやRPAだ。
より正確には正社員もAIなど仕事を奪われているため、3者が陣取り合戦をしている感じだ。
おそらく将来的には、AIやRPAが人間の仕事を奪っていくだろう。
そのような世界になった場合、AIやRPAに代替可能な仕事をしていた人はどうなるだろうか。
ベーシックインカムのような最低限の生活できるだけのお金は、国から提供されているのかもしれないが
おそらく時間だけ余りある人が量産されるだろう。その時に備えて、今からでも自分の好きなことを探しておいたほうがよいかもしれないと感じた。
今月も興味深い本を紹介していただき、ありがとうございました。