投稿者 ynui190 日時 2021年6月30日
「企業の天才!」を読んで
本書は後に8兆円企業となる会社を創業しながら、リクルート事件という戦後最大の贈収賄事件を起こした江副浩正の栄光と衰退の物語である。
「リクルート事件」が起こった当時、高校生の私は飽きもせず連日報道される内容に嫌気がさしていたし、何より贈収賄を起こした江副という人物を欲にまみれた極悪人のように思っていた。
ところが今回本書を読んでみると、江副浩正は戦後の高度成長期はもちろんのこと、バブル崩壊後の日本にも必要な人物ではなかったかとさえ思うようになった。
時代は高度成長期の少し前、江副が東京大学アルバイトを始め、やがて起業するところから始まる。
当然インターネットもない時代、欲しい情報を欲しい個人へ届けるという情報サービスを紙媒体で始めていく。
本書は現代では至極当然のサービス内容が、学生運動の盛んな時代背景とともに記載されている為、一瞬いつの時代の話かわからなくなる。
それほど革新的な内容が多くそれらを生み出す江副と人物を知りたくてページを読み進めた。
起業する人、しかも高度成長期を経験した起業家となるとワンマン、カリスマ性などが思い浮かぶが江副には、それもあまり感じられない。
江副本人もそれを認めていて、だからこそ周りに優秀な人材を配置している。
江副の魅力は、高度成長期という社会が大きく変わってくる時代に、企業と学生をマッチングさせる今までにない仕組みを作る先見性、これまで誰も行ったことのないサービスにコミットできる精神力と胆力は当然のことながら、私個人は適材適所に人材を配置する管理能力、それ以上に社員一人一人に「当事者意識」を持たせ、仕事に取り組ませる社風を作り上げたことが江副の大きな功績であり、魅力だと感じた。
本書の中でも「社員皆経営者主義」として紹介されている。
そうなのだ、会社のお金だからと他人事のように行動したのではイノベーションも会社へ利益をもたらすことも難しい。
管理職の多くがどうやって部下に当事者意識を持たせながら仕事に取り組ませるか、頭を悩ませているのではないだろうか。
そのヒントが本書にある。
江副は、今では当たり前になりつつある(この言い回しを何回使うだろうか)国籍も年齢も性別も関係なく、良いアイディアを持っている人材を登用し仕事を任せている。
こう書くとその方法自体、陳腐で当たり前ではないかと思われそうなのだが、言うは易し行うは難しを地でいくことになる。
社会変動のさなか、一人の天才だけでイノベーションを起こすことは難しく、小さくまとまりがちだ。
同じように江副という天才が一人いるだけでは、リクルートという会社も日本の高度経済成長ここまで大きくならなかったのではないだろうか。
それ故にバブル崩壊後、時を同じくして江副が経営の舞台から降りたことが、日本企業の成長にも多少なりとも影を落としたのではないかとさえ感じる。
贈収賄事件をなかったことにするつもりもなく、江副が関係していないとも思っていない。
ただ、既得権益も考えず、イノベーションを起こし続けた江副だからこそ会社を大きくできたのだろうし、だからこそ創業者であるにも関わらずWEBサイトから名前が消されるという憂き目にあったのだろう。
バブル崩壊以降、日本経済が「失われた20年」と言われて久しい。20年以上たった今も多くの問題は解決せず緩やかなデフレが続いている。現在進行中といっていい。
サラリーマンと言えども、一人一人が「社員皆経営者主義」で行動していかなければ、何も問題は解決しないように思う。
そして、自分の部下にあたる若い世代に「社員皆経営者主義」という当事者意識を引き継いでいかなければ、この先も同じように日本は成長しないだろう。
ことなかれ主義では何も解決しない。
もし私が今イノベーションを起こし、何かしらの既得権益を侵しそうになったとしよう。
それでも私はそのイノベーションを続けていけるのか、若い世代に当事者意識を引き継ぐことと同じぐらいその覚悟が問われている気がする。