投稿者 sakurou 日時 2014年11月30日
本書を読んで、私がまず思ったのは、免疫機能は人体に非常に重要であるにもかかわらず、免疫機能についてまだ不明な領域がたくさんあり、私達自身も免疫機能について無知なのではないか、ということである。
免疫機能については、リンパ球やらマクロファージやら、何となく知った気になっているが、実はそれほど単純なものでなく、現代医学でも不明な領域がまだまだありそうなことを本書は教えてくれる。
内臓ついてはある程度機能がわかりやすいこともあり、研究が進んでいる。脳についてはやっと現在の脳科学で研究が進んでいるぐらいだと考えている。それと比較して、人体の免疫機能は非常に重要と思われているものの、つい最近、大阪大学で「病は気から」ということが免疫学的に裏付けされた、一言で要約すると交感神経がリンパ球の働きを抑制、つまり「ストレスが免疫力が低下する」という程度であり、まだまだ不明な領域がたくさんあるということだと思う。
本書は、自身も自己免疫疾患にかかっている筆者が8500本(!)もの論文、数十人へのインタビューという膨大な情報を調べ尽くし、自らの治療のためというだけでなく、ジャーナリストとして経験するため寄生虫感染療法をして数ヶ月という長い時間をかけ、胃腸の不快、下痢など様々な症状に苦しみつつも最終的には寛解に向かうという自らの病気の本質を知りたいという執念を感じる、単なるノンフィクションを超え、一種のドキュメンタリーであり。免疫や病の本質に迫る読み応えのある一冊である。
私は本書を読む前、「細菌は不潔」「寄生虫は取り除くべき」「抗生物質の服用は仕方ない」というぐらいにしか思っていなかったが、目からウロコのことばかりであった。
多発性硬化症やアレルギーといった自己免疫疾患に関する内容だけでなく、ガン、うつ病といった最近増加傾向にある病気の因果関係についても不確定ながらも言及されている。
自己免疫疾患に対する治療について重症の腸疾患に対する糞便移植による治療等も興味深かったが、最もショッキングだったのは無菌マウスの実験である。
無菌状態で育てたマウスは免疫力が低いばかりか、心臓、肺、肝臓が萎縮していたというのである。
我々の価値観では、菌が悪さをするなら菌を除去すれば正常になる、と思いがちだが、実験結果はまるで逆で、正常な発達を阻害することが科学的に証明されているのである。
また、興味深かったのは細菌多様性の重要性である。
一見、必要なものだけ残せばよいと思いがちであるが、実は細菌の多様性に対する抗体があらゆるアレルゲンに対する免疫機能を発揮している以上、あらゆる細菌や寄生虫が生体機能の維持に寄与していることを教えてくれる。
エボラ出血熱の対応に見られるようにグローバル化の進展に伴い、地球上の様々な細菌侵入リスクが増加しており、我々の生活に脅威を脅かしている。そう思うと、特に地方におけるいわゆる地産地消の生活が外部からの不要な最近の侵入を抑止し、自らの生活を豊かにしているのかもしれない。
しょーおん先生の断食から一日一食生活、先月読んだ「フードトラップ」から最近、食について考えさせられる。食が腸内環境に影響し、「腸は第二の脳」と呼ばれ、数々の本が出ているが、本書でも同様のことが書いてある。腸内細菌がまさに人を健康にも不健康にもしているのである。
また、ジャンクフードに関する記述について興味深かったのはジャンクフードの脂肪により太るのではなく、ジャンクフードを摂取することで腸内環境の悪化を招き、太りやすい体を形成し、最終的には膵臓の機能低下から糖尿病に至るということである。
そう考えると、改めて気付かされるのは、人体は非常にセンシティブでありながら、体内にいる様々な微生物や細菌の絶妙なバランスにより免疫機能が形成されている、というある意味当たり前の事実である。
人は免疫機能により、外部の最近や微生物を除去したり共生したりしながら、命を永らえている機能が元々備わっているのである。もちろん、抗生物質が悪いわけではない。しかし、抗生物質の濫用が現在のアレルギー、自己免疫疾患、細菌性感染症を招いているとすれば、我々はその現状を反省しなければならない。
また、本書を読んで改めて思うのは西洋医学と東洋医学の違いである。
病原体に作用することを重視した西洋医学とは異なり、東洋医学は陰陽五行説のように体のバランスをとることを重視する。
不健康とはバランスがそれていない状態を意味し、バランスをとるために薬だけではなく、太極拳のように呼吸法から体のバランスを整えるプログラムが太古の昔から形成されている。まさに医食同源であり、ガン、精神疾患が増加している日本では今後見直されるべきだと思う。
もう一つ本書を読んで思ったのは「細菌の多様性」に関する記述である。本書では細菌の多様性が重要であると論じている。この記述でふと思い出したのが、アメリカ等である周囲を壁で囲んだ富裕層向けのコミュニティである。
ある特定の人々がクローズドな空間でコミュニティを形成する。これは確かに外敵から身を守るという意味では有効なのかもしれないが、壁の外の外敵から身を守るという意味では非常に無力であるし、大きな変化の流れに対して脆弱なコミュニティであるように思えてならない。やはり、自分の社会的免疫力を高めるには、様々な階層の人と多様な価値観に触れ、自分の価値観(≒免疫)を形成していく方が、これからの世の中を生きていくには重要だと思う。
人は生きていく以上、病とは無縁でいられない。しかし、本書で試した療法はあくまでも「病を封じる」ものではなく「寄生虫の力を借りて自らの免疫力を高めていく」手段であり、人間にはものすごい免疫力が備わっていることを忘れてはならない。
本書を通じて、今後、免疫学に関する最新動向を把握すると共に、自身の免疫力を信じ、呼吸法等により免疫力を高めていくことで新しい未来を切り開いていけるものと私自身、確信している。