投稿者 sakurou 日時 2014年12月30日
本書は、ある主婦山村友美(仮名、以下同)さんが無期懲役(しかも仮出所を拒否している)殺人犯、美達大和氏(本書に合わせて以下、みたっちゃん)と文通を始め、次第に高校生の娘サヤカと中学生の息子ヒロキとの文通を通じて、二人の子供がみたっちゃんのアドバイスを基に、次第に生き生きとして成長していく物語である。
似たようなカバーの本もざっと読んだが、どちらかと言えば勉強法というよりも合格体験記であり、勉強テクニックしか書かれていない本である。本書にはそういったことは全く出てこない。
内容が素晴らしいだけに、もしカバーのイメージからこの本が書店で類似本と同列に扱われているなら非常に残念である。
本書に書かれているのは勉強のテクニックというより、努力を続けるために必要なメンタル・マインドである。
戦争や企業活動と同様、勉強も、「テクニック・技術<戦術<戦略<メンタル・マインド」である。上位を押さえることが重要なのは言うまでもない。
ワールドカップでの予選敗退、錦織圭の活躍等、今年はメンタルの強さ弱さが話題に出たことが多かった。本書にあるのは常に努力し、自信をつけ、まさに強いメンタルを培うための思考、行動法である。このタイミングで出たのも時代の流れに沿ったものだと思う。
この本を読むと、みたっちゃんの温かい文体で「勉強=大変」という価値観をいとも簡単に打ち崩され、「勉強=目標達成のために苦しくても一歩ずつ進めるもの」という新しい価値観が気持ちよくインストールされる。
また、一つ意外なのは出版がプレジデント社というところである。まあ、プレジデントファミリー編集部なので、受験モノいう位置づけと思われるが、お固いイメージのプレジデント社からこういう尖った本が出たことに謝意を評したい。
読み始めると、まず、まえがきの主婦の「『人を殺すとはどういうことか?』に衝撃を受け、みたっちゃんに手紙を書いた」という動機に圧倒される。
「人を…」も読んだが、その本を通じたみたっちゃん像は、途中改心したところがあるとはいえ、「自分との約束は絶対に破らない」「約束を平然と破ってのうのうとしている人を許せない」というポリシーを貫いた故に他人を殺めた人であり、そのみたっちゃんに手紙を書いた行動力は素晴らしいとしか言い様がないし、しかも子供達も巻き込むというのは面白いし、その二人のマインドも素晴らしい。この親にしてこの子あり、とはまさにこのことだと思う。
内容はサヤカのいじめ相談から始まり、ヒロキの相談に筋トレの方法を教え、サヤカ足を細くする方法に至っては「自分の得意分野です(笑)」と方法を伝授する等、非常に多岐に渡っており、みたっちゃんの豊富な知識やユーモアにも驚かされる。
一方で、「人間で大切なのはIQの高さより勤勉性、真面目さ、自分との約束を守る心」「伸び悩みの時にいかに続けられるか」「不安を脱するには正しい努力で結果を出す」「サボりは自分に対する裏切りである」
「ダメ出しを受けた時に落ち込むだけの人と何がいけなかったのか反省する人で差がつく」等、厳しい助言が次々と出て、子供より経験を積んで努力の重要性を痛いほど知っている大人の方がグサっとくる。
何より小学生の時に、「何でも他の人ができないぐらいやれば大きな力がつくことに気がついていた」時点でみたっちゃんは只者ではないのだろう。
中でも一番印象的だった一言は「人は心が描く想像の産物」という一文である。
「強く願い続ければ必ず叶う、決してネガティブには考えない。これが人類の進化の証、想像力」とみたっちゃんは二人を励まし続ける。
サヤカは文系にもかかわらず、命に携わる仕事がしたいと助産師から最終的には産婦人科医に進路を替え、勉強を始める。
結局、大学受験には落ちてしまうが、次に向かって力強く歩き出す。
そのサヤカの手紙には私も勇気づけられる。
目標を目指す、目標を目指すために日々努力を続けるだけでなく、たとえ失敗しても失敗を糧にして、淡々と努力を続ける。これがみたっちゃんの教えたいメンタルの真骨頂なのだと思う。
ところで、なぜみたっちゃんは山村友美さん、サヤカ、ヒロキとの文通を、しかも楽しみに続けているのだろう?
この疑問を解く鍵が(あくまでも私の仮説に過ぎないが)「人を殺すとは…」を読むと見えてくる。
みたっちゃんは、父を在日韓国人を父に持ち、一代で金融で成功するも、母親の家出や、ヤクザとつきあいがあった時代がある等、非常に複雑な人生を歩んでいる。また、父親からの強い影響で「自分との約束は絶対に破らない」「約束を平然と破ってのうのうとしている人を許せない」というポリシーを貫くため、犯行に至るわけだが、壮絶な犯行現場を述べ上げる検察官の言葉に衝撃を受け、反省と贖罪の念を抱き、仮出所を拒否している。
また、(もう会わないと決めている)彼の息子からの「普通のお父さんが良かった」という一言を言われショックを受けている。
もしかしたら、みたっちゃんは文通を通じて、いわゆる「普通の家族」を知り、家族を応援したいという思いで、文通を楽しみにしているのかもしれない。
もう少し「人を殺すとは…」に言及すると、みたっちゃんは課題図書とは別人のような冷徹な筆致で、無期懲役囚は反省の念がない、人を殺めるという行為を他人(=殺められた被害者)のせいにする人がほとんどであり、淡々と刑務所内での労務を重ね、仮出所の日を待っているのだということ。そのことに驚いた一方、その環境に流されずに日々努力を重ねるみたっちゃんのメンタルの強さに私も衝撃を受けた。
この2冊の本を読んで気づくのは、サヤカやヒロキのように目標に向かって努力を続ける人がいる一方、ほとんどの無期懲役囚のように努力や反省とは無縁でものほほんと生活できている人々がいるという事実である。この世の矛盾を感じずにはいられない。
また、少し外れるが、大阪大附属池田小事件のことも思い出した。御存知の通り、事件の社会への衝撃とともに、容疑者の被害者を踏みにじる言動、死刑を望む行動から社会的問題の大きさもあり、早期の死刑執行となった。Webページで少し読んだけだが、私が見ても強い憤りを感じる。
事件から長い時間が経ったが、それでも遺族の悲しみは消えていない。
綺麗事と言われるかもしれないが、やはり正しく努力していない犯罪者は極刑等で裁かれるのは止むを得ないし、正しく努力した人が報われる社会であるべきである。
課題図書に話を戻すと、みたっちゃんは「99.99%の人は自分に甘い」という一節がある。
「みたっちゃん自身は0.01%だ」と言いたいのかと思いつつ読み進めていくとそうではないことに気付かされる。人には甘えが必ずあり、みたっちゃん自身も99.99%に入りそうな甘えと日々戦いながら、今日も少ない自由時間の中で粛々と読書、体力トレーニングに励んでいるはずである。
12月はこの1年を振り返り、来年の目標を立てる時期である。ちょうどこの時期にこの本に出会えたのは幸せである。来年実現したいと思い、書き溜めたものを来年の手帳に書き写す。子供達にも、sakurou家版「やるぞノート」目標ノートを作らせようと思っている。
この本からの学びを来年の行動に活かし、家族共々、みたっちゃん、友美さん、サヤカ、ヒロキに負けない充実した一年にしていきたい。