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第117回目(2021年1月)の課題本


1月課題図書

 

PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話


私はスティーブジョブズの信者ではなく、ハッキリ言えばあまり好きな人ではないのです

が、そのことと彼の業績を同列に並べてはならないのです。そんな彼の業績のうち、ピク

サーという会社を上場させるまで支援したことは、もっと多くの人に知られても良い話だ

と思います。私はアニメーション映画も特に好きなわけではないのですが、それでもアメ

リカにまともなアニメの会社を作った功績は大だと思います。そんな歴史を勉強するつも

りで読んでみて下さい。

 【しょ~おんコメント】

1月優秀賞

 

1月分の課題図書は先月はリアルで、分かりやすい本だったから、かなり期待したのです

が、結局一次突破をしたのは、BruceLeeさん、masa3843さん、dmnss569さんの3名

だけでした。

 

そしてお三方の投稿を読み直して熟慮して、優秀賞は、dmnss569さんに差し上げることに

しました。おめでとうございます。

【頂いたコメント】

投稿者 shinwa511 日時 
本書を読んで仕事をするに当たり、理想と現実の折り合いの見極めが必要なことを、改めて感じました。

作者であるローレンス・レビーは、1994年にスティーブ・ジョブズ自身から声をかけられ、PIXARの最高財務責任者兼社長室メンバーに就任します。後に、PIXARの取締役にもなりました。彼は、PIXARの事業戦略への適切な投資や、株式上場を含めた資金調達の実行を通じて、赤字を回復させていきました。

本書は、PIXARが「トイ・ストーリー」の制作に乗り出したところから、ディズニーに買収されるまでの約10年間の物語です。

赤字の理由は、美術的・創造的にすばらしい物語を求めるという理想を追求したためでした。素晴らしいCGアニメーションを追求するだけでは会社は成り立たず、製作するのに必要な資金の調達や、映画チケットの販売、制作のペースアップなどもローレンス・レビーに求められました。

彼の行った役割は良いアニメーションを製作するという理想と、経営という現実のバランスを保つということです。

当時のスティーブ・ジョブズは、理想を追い求めるあまり、Appleを一度追放されていますが、PIXARでも、理想を追求する頑固さは変わらず、現場のスタッフたちには嫌われていたようです。

しかし、ローレンス・レビーが過度に、経営の数字の話ばかりをPIXARの社員達に言い過ぎてしまうと、社員の製作に対する士気が、下がってしまうという危険もあります。

そうならなかったのは、彼が経営の数字だけを重要視するだけではなく、現場で働く人々の技術力とそれを維持するモチベーションの両立が重要であると、理解していたからです。

彼はトイ・ストーリーを制作する現場を見るたびにPIXARの技術と、それを素晴らしいストーリーに変えていく社員たちの技術力と、仕事に対するこだわりを、実感していったのです。コンピュータ上でモノの色や、光、影を描写し、肌のシワまでも違和感なく再現することは、当時としては画期的なことでした。

経営面での資金調達を行いながら、PIXARを世界中に広めていきたいという理想を抱いたのです。

彼が、理想と現実の折り合える地点を見極めるために参考にしたことに、中道という仏教の思想があります。

釈尊の悟りの真髄とされる中道とは、苦行主義と快楽主義のいずれにも片寄らず、二つの極端な立場のどちらからも離れた自由な立場の実践のことを言います。中は二つのものの中間ではなく、二つのものから離れ、矛盾や対立することを超えることを意味し、道は実践することの方法を指しています。

理想と現実のどちらにも偏らずに、折り合いをつけた選択を、ローレンス・レビーは求めていたということを、PIXARの経営に参加していく内に理解していったのです。

自分のことに当て嵌めて考えてみると、普段の私生活や仕事の中でも、理想と現実のギャップに判断を迫られる場面というのは数多くあります。

そういった際に、理想だけを追い求めてしまうということや、現実だけに注意を払うということでは、問題の解決は上手く進みません。

まずは、自分たちが理想としている距離から、現実として今どの場所に居るのかを把握して、理想に対する行動を判断しなければいけません。

そして相互の問題点が、理想と現実のどの部分で折り合える地点なのかを見極めて、判断し行動するようにします。
 
投稿者 akiko3 日時 
”イノベーションは外からくる。内にいる間は突飛なこと思い浮かばない”

ラジオから流れていた講演会で、耳にした言葉を慌ててメモした。
その講演者は、絵の具に亜麻仁油を足すことで油絵が発明され、それまでの漆喰に乾かないうちに一気に書かないといけなかった絵画が、ゆっくり考えて書けるようになり、重ね塗りも可能になった。
さらに、キャンパス地を生産している地方で、布を板に貼る発明が起こったという話からイノベーションを説いていた。
ちょうど、PIXARをあと少しで読み終わるところで、イノベーションとは?と考えていた。PIXARの成功は、ジョブズが招きいれたローレンスがいなければ、賞や特許を持っているPIXARの実績や文化がなければ成り立たなかったこと。一人の天才だけでは集団の成果である大きなイノベーションは起こせない。

では、ジョブズ氏の偉業ってなんだろう?
PIXARの生み出す世界が、”コンピュータースクリーンに目にするものすべてを作りこむ”という制約条件下で不可能と思えるものを作っていると気づいた先見性とそれを私財で支えたこと?
PIXARを株式公開で自立させようと思い描いたこと?
認知度や人脈やプレゼン能力?


その前に、実はアニメーションについて認識がかなり改まった。
著書を読むまで子供向けのエンタメと括り、深く考えたことがなかったので、『トイ・ストーリー』が生命のない動かないものに、”命”と”心”を与える魔法のテクノロジー×物語の独創的な世界なのだと感心した。そして、この物語を生み出す”創造力”は、幼い子供でもおもちゃをもって一人遊びをするように人が持っているもの。みんなが持っている心なのに、誰も見たことがない。でも、そんな心があると認識している不思議。
一方、心を無視して生きている部分もあって、人は様々なイノベーションを生みだし、豊かな暮しをしているのにストレスや不安は増えている。だから、アニメーションで子供も大人も楽しませ、大切なことを思い出させ、心に魔法をかけることが必要とされているのだ。
PIXARの仕事が一段落し、ローレンス氏が企業から離れ、心から求める答えを探そうと、「人の幸せに関する哲学や東洋思想を学び、生活に活かす方法を学びたい」と申し出た時、ジョブズ氏は「我々のなかからそういうことをするやつが出てきてうれしいよ」と言っていた。
そんな風に言えるのは、ジョブズが禅を学んでいたからだろう。ググったところ“禅とは心、空の価値観を指す”とあった。
ジョブズ氏には“心が満足する生き方”や“人生の豊かさ”について語っている有名なスピーチもある。そんな価値観があるから、PIXARの生み出す物語と対照的なコンピューターアニメーション技術のイノベーションの人にもたらす豊かさに気づけたのではないか?

彼はスピーチの中に「点と点をつなぐ、どこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。」とある。その点と点が相反するものでも成し遂げるジョブズの能力を“現実歪曲フィールド”という言葉で揶揄していることもあるが、それはジョブズ氏のベースに禅の考え方=空があるから、不可能/可能、有/無なのだ。
それから、資産はお金ではなく“時間”とも捉え、生きながら今日が最後ならと死を意識する。芸術と技術、西洋と東洋、我々の多くが見ているものは見ず、見えていないものを見ようとしたところは、天才だからかと感じた。

しかし、それゆえか人と対立することも少なくなかったようだ。
PIXARの有能な人達が離れなかったことや中道を模索するローレンス氏をヘッドハンティングできたことは運がよかったと思う。それぞれが自分の仕事に取組み、前進することでPIXARは大きく飛躍しブランドを確立できた。建設的に意見を聞き、相手の領域はその人に任せ、信じ続けた結果だ。

ジョブズ氏はスピーチで“自分が信じる哲学を軸に、愛する仕事に取り組み、アップルを追い出されたという痛い学びも新たな挑戦者として生き直せた”と、後悔のない人生を歩むようアドバイスしているが、PIXARの成功後、スタッフから試写会で意見を求められた時は、とても嬉しかったのではないか?ジョブズvs社員という点々が中道の上に結ばれ、実りの豊かさを受取った瞬間だったろう。

最後に、ジョブズ氏のPIXARに対する偉業は、やはり天才的なイノベーターであり、私財を投じ支え続けたこととローレンスという有能な人材を招き入れ、新たにイノベーションしたものが継続できる環境を整えたこと。“人生を金儲けだけに費やすのではなく、ものすごいものを作ろう”と集中したことだ。
 
投稿者 kenzo2020 日時 
「PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」を読んで

この本から学んだことは以下の通りである。
・議論が大切であると。
・メンター、師という相談役をもつこと。
・現場に任せること。
・中道の精神を心がけること。

一つ目の「議論が大切であると。」をなぜ考え付いたのかというと、スティーブが思いのほか、相手の意見を聞き、建設的な発言をしていたためである。別のスティーブの本では、かなりトップダウンの傾向があった。例えば、相手の話を聞かず、話をねじ曲げ、相手の意見をあたかも自分のものであるかのように話すなど、劣悪なものであった。本書では、気難しい場面もあったが、議論して事業を進めていた。PIXARが成功したのは、スティーブとの議論が上手くいったことが要因の一つである。

二つ目の「メンター、師という相談役をもつこと。」については、本書でよく相談役の意見を聞く場面が見られたためである。もちろん、だれでも相談すれば良いというものではない、自分に適した人が必要である。そのような人を探し出したい。

三つ目の「現場に任せること。」については、現場の意見に耳を傾け、尊重していたためである。責任はトップがとるのであるのだから、トップが口出しするのは当然ではあるが、クリエイティブな良さが欠けてしまい、凡庸な作品に仕上がることがある。極力、現場に任せるようにしていきたい。

四つ目の「中道の精神を心がけること。」については、アーティストのような面と、官僚的な面の二つが必要であると本にあったためである。やりたいことをやるという想像の面では、儲けに繋がらないこともあり、ビジネスとして成り立たなくなる。どのようなバランスにするのか悩ましいところだが、うまくバランスをとっていきたい。

PIXARの社員が、給料が少なく、将来どうなるかわからない経営状況の中、なぜこんなにも頑張ってこれたのか疑問に思った。一つはやりたいことをやれるという環境が、アーティストにとっては、もっとも望ましい環境で、それが社内の文化となっていたからなのかもしれない。そのあたりについて、別の本などで調べてみたい。
 
投稿者 kawa5emon 日時 
まず何よりも、著者がこの本を執筆してくれたことに心から感謝したい。
ビジネス上の複雑な課題整理とその後の夢のような成功をどう繋げたのか?、
その実体験を言語化してくれたことで、読者は追体験が出来、また多くのことを学べるからだ。
今回のような夢物語の裏側はそうそう目にできない。だからこそ語られたことは非常に貴重で、
案の定内容も初めて触れる世界の連続で、自分もその一員のような錯覚も覚えた。
スティーブ・ジョブスの言動も然り。世間一般の評判とは違い、意外の連続だった。


本書で私が気になったのは、如何なる困難の中でも最終的に突破口を見つけ、
物事を前に進める著者の姿勢とそれが可能になった環境についてである。
最終的には、中道思想を通じ、現実世界での充足と心の充足を両方得る方法と展開するが、
よくよく読むと奇跡の連続である。出会い、怪我・事故後の事態好転、機を得た引き寄せ等々。
何故そのようなことが起こったのか?起こり得たのか?
PIZAR成功物語は中道思想の体現版と著者自身の気付き説明があるが、それは後々の話で、
PIXARで当事者だった時はその法則に気付いていなかった。
現実を変えられるのは行動が全てとした時、PIXAR苦難の時、彼は何を感じ、何をしたのか?
以下4点が本書から得た自分なりの学びである。


数字だけで物事を進めない。
著者は元々ビジネス世界での数字のプロであった。ビジネス化、事業化にお金は必須である。
そもそもどんな領域であろうが秀でた存在にならなければ、その世界の客観視は無理である。
しかし数字だけで進めると人心が離れ、事業自体にも人々の想い、意義や価値が薄れていく。
著者は計算上の結論だけに判断を委ねなかった。当初は無意識下の実行だったろうが。


関係者の想い、情熱、意思を大切にする。蔑ろにしない。
数字のプロでありながら、家族も含め人を大切にしている点が非常に印象的であった。
象徴的な場面はp244ジョブスの発言「でも、ここで折れたら・・・」の部分に象徴される、
自分たちにとって譲れないモノを協議、合意する場面である。結果交渉を蹴る決断をする。
その前後でも著者は関係者に深くヒヤリングし、相手の立場・意思を非常に大切にしている。
何をするにも最後は人。ここを蔑ろにすると長期的な成功、そして継続は望めない。


解決の糸口、突破口が見つかるまで諦めない、行動し続ける。
自分に問うと痛みを感じる。自分に真剣さが足らない、執着心が足らないと気付いた。
徹底的に調べる、議論する、他者の意見を聞く、助言を求める。
仕事に魂が乗るか否か、この真剣さがその分岐点だろう。
そしてその真剣さが周りに伝わるからこそ、周囲の理解、協力も得られるのだ。
加えて常日頃からの人脈ネットワークも意識せねばと思った。
自分が尊敬できる、意識・立場の高い人脈形成が有益なアドバイス取得への試金石になる。


行き詰まったら振り返る。自分自身、やっていることを客観視する。
パソコンで漢字変換の折、「息詰まる」の表現が出た。あ、八方塞とはこのことだ。
息が詰まったらどうするか?いつもやらないことをやってみる、行ったことのない場所に行く等。
著者の場合は、散歩や家族との会話、怪我・事故がその契機になり振り返りの機会を得ている。
なるほど、これらの機会を意図的、定期的に作ることが物事を客観的に見る機会になるのだ。


これらは本書以外にもありそうな内容だが、情けないことに私は実感出来ていなかった・・・。
そしてS塾で教える智の道にもつながるではないか・・・。
著者が中道の概念を用いPIXAR物語を回想したお蔭で、客観化、再現することが可能になった。
この点に於いても本書は非常に良書であると思う。この無意識化の意識化に感謝したい。


足元を見れば私は、先月転職の新職場で小規模も、営業組織の強化、発展がミッションである。
市場分析、戦略・戦術立案、人員配置、チームビルディング、事業の拡大、
更には現状、社内にその経験者が居ない等、本書の内容と丸被りである。
今回の学びから行動を真似、そこに自分の意志を乗せれば、明るい未来がありそうな気がする。
仕事で躓きそうな時、本書を読み返せば、今回は見えなかった気付きも得られそうな気がする。
もし眼前に腫物扱いのジョブスのような人物が現れても、勇気を持って飛び込もうと思えた。

今回も良書のご紹介及び出会いに感謝致します。
今年は毎月投稿が最低目標です。読書を通した自己への問いで自己成長を継続致します。
 
投稿者 daniel3 日時 
 ピクサーと言えば、ジョブズ復活のきっかけとなり、その高いCG技術ばかりにスポットライトが当たってきましたが、ビジネス成功の裏には、それをしっかりと支える人々がいることに改めて気づかされた本でした。飛び抜けた才能だけではビジネスの成功は片手落ちであり、夢と現実のバランスをいかに取るかに取り組んできたローレンス・レビーの姿勢は、同じ(というにはおこがましいですが)ビジネスマンとして参考になりました。またビジネス本としての面白さもさることながら、子供の頃に「トイ・ストーリー」を初めて見た時の興奮を思い出し、ワクワクしながら最後まで読むことができました。

 本書を読む中で特に気になった以下2点について述べます。
 (1)「無限の彼方へ」飛び立つために必要なこと
 (2)「大事なのは次の一手をどう指すか、だ」(P.71)

(1)「無限の彼方へ」飛び立つために必要なこと
 歴史にifはないですが、もしあの当時ローレンス・レビーがいなくても「トイ・ストーリー」は高いCG技術が認められ、大ヒットしたかもしれません。でも、社員がギリギリ納得できるストックオプション制度の整備や、最高のタイミングでのIPOは実現できなかったと思います。そうなれば、優秀な社員の確保やディズニーとの契約再交渉、その後の良い条件での
ディズニー買収もなく、「ファインディング・ニモ」などその後の大ヒット作を現在のカタチで見ることはなかったでしょう。
 つまり飛び抜けた才能で1回成功することはできるかもしれませんが、「無限の彼方へ」飛び立ち、ビジネスで成功し続けるためには、お金という現実に向き合うことは避けられないという事実に改めて気づかされました。CFOというと堅苦しいイメージがありましたが、夢と現実に折り合いをつけながら、夢の実現を支える仕事というのも素敵だなと思いました。


(2)「大事なのは次の一手をどう指すか、だ」(P.71)
 著者のローレンス・レビーは、ハーバード・ロースクールを卒業後に弁護士として活躍した後、シリコンバレーの企業でCFOまで上りつめています。この経歴を見るだけでも超優秀なビジネスパーソンであることはわかりますが、ピクサー入社後の仕事のスピード感には驚くものがあります。時間経過でいえば、1995年2月に着任してその11月末には、同年最高のIPOを果たした企業のCFOということで、とてつもない才能と幸運に恵まれているように見えます。しかしそんなチャンスの始まりは、怪しげなピンチの仮面を被った役者の登場から始まります。当時迷走中とは言え、シリコンバレーでも悪名高いスティーブジョブズからいきなり電話があり、

「雑誌であなたの写真をみかけ、もしかして仕事をご一緒できないかと思いまして」(P.16)

という怪し過ぎる誘い文句を受けるところから始まっています。面談前に少しピクサーについて調べてみれば、あまり業績の思わしくない企業でした。実際に会社に訪問すれば、シリコンバレーの外れの製油所が隣のパッとしないオフィスなわけです。でもそのオフィスでは世界を変えるかもしれないアニメーションの卵が孵化しようと懸命にもがいています。この卵の魅力に取りつかれ片足を突っ込めば、スゴイ技術だけどマーケットがない「レンダーマン」や短編アニメーション、儲けが少ないコマーシャル事業など、「ないない」ずくしの状況にさらに困惑します。最後に残った長編アニメーション事業についても収益モデルさえない上に、ディズニーと不利な契約を結んでしまっており、そんな状態をジョブズが個人資産で何とか凌いでいる有様です。
 そこまで知った時に一般人であれば、スティーブジョブズに騙されたと後悔してもおかしくない状況です。こんな状況でIPOなどふざけるなと怒るか、さっさと転職してもおかしくないでしょう。でもなぜ著者は、ピクサーで奮闘を続けることを選べたのはなぜでしょうか。
 それが、

「大事なのは次の一手をどう指すか、だ」(P.71)

という言葉に集約されていると思います。どれほど危機的な状況でも命まで失うことはないという、この第三者視点こそが一流のビジネスマンとそれ以外を分ける分水嶺だと思いました。必死にもがくスタートアップ企業に突如現れた「スーパーCFO」としての役割を演じきることができたからこそ、危機的状況でも感情に振り回されずにピクサーの立て直しに取り組むことができたのだろうと思います。


最後に本書は、ピクサーの成功物語の舞台裏を知れる面白さと同時に、ビジネスマンとして見習うべき点にあふれた良書だと思いました。
 
投稿者 BruceLee 日時 
「やはりジョブズは魅力ある仕事人なのかも」

本書を読んでまず不思議に思ったのは「何故、著者はピクサーへの入社を決意したのか?」という事。

「だが、そう言って斬り捨てるには惜しいだけの魅力がある。スティーブのもとで仕事をするとどうなるのか知らないわけだが、では、それを知るチャンスも捨てるのか?」

と、著者は前向きな見方をするが、当時のスティーブ・ジョブズは言ってみれば下火の状態。アップルを追い出され、ネクストもうまく行かず、金はあるが失敗続き。将来アップルに戻り、携帯業界に旋風を巻き起こす、なんて当時は誰も想像してない訳で、「終わった人じゃね?」と考えてもおかしくない。また著者にはジョブズは仕事がやりにくい相手との認識もあった。つまりこの著者もフツーじゃない気がするが、フツーじゃないからこそ、フツーじゃない体験が出来た、とも言える。これは恐らくアメリカのビジネス文化が実力主義という事も影響していると思う。今回の転職が失敗したら、その次を見つければ良い。勿論、それが可能なのはそれだけの実績と能力がある前提だが、その意味では著者には充分な自信があったのだろう。

では、実際入社したらどうだったか?これがあまりに想定内過ぎ(笑) 訳者あとがきにある通り「どんな無理ゲーだよ」状態。手元にある手札は最悪だ。

「レンダーマンソフトウェアに長期的な展望はない。コマーシャルアニメーションもお先真っ暗だ。短編アニメーションもだめ。アニメーション映画も。我々の未来も運命も世界有数の資金力と影響力をほこる会社に握られている。さらにピクサーとそのオーナー、スティーブの関係は最悪と来ている。これが我々の手札である」

一方、財務状況は酷いが、著者はピクサーの魅力を感じ取る。アニメーションが「クリエイティブな戦略であると同時に財務戦略でもある」ビジネスであり、以下を聞いたからだ。

「テクノロジーはエンターテイメントを前に進める大きな力です。すばらしいストーリーと新たなテクノロジー、連達の経営がそろった会社が未来を切りひらくのです。そして、ピクサーにはそれがすべてそろってます。これは珍しいことですよ」

自分がココで感じたのは、著者はピクサーに来て「誰もが体験出来る訳ではない千載一遇の体験ができるチャンスを得た」という事だ。そして荒波の中で活路を見出していくが、自分が意外だったのはジョブズの一言だ。

「僕の言うとおりにしろと言うつもりはないよ。でも、ここで折れたら自信やほこりをなくすと思うんだよね。ディズニーブランドを見るたび、みじめな思いをするようになってしまう。でも、交渉を蹴れば自尊心は守れるし、後々、もっといい条件で契約できるようになるはずだと思うんだ」

ソニーが設立間もない頃、OEMのビッグオファーを受けるもブランド「SONY」に拘り断った話を思い出す。ジョブズもピクサーの大切な部分、譲ってはならない部分を理解してたのだろう。当時のピクサーはジョブズの私財で運営されていたのだから、社員の気持ちなど考えず、ジョブズのやりたいようにやるのもアリだとも思うが、この辺はアップルを追いだされた経験でジョブズが得た部分だと想像する。

さて、我々は本書から何を得られるだろう?本書は副題にある通り「お金」の話である。会社に必要なお金の意味、流れがよく理解出来る。「エグゼクティブバイスプレジデント兼最高財務責任者」という立派な肩書だが、要するに著者のミッションは「ピクサーの財務状況を健全にする事」、砕いて言えば「あらゆる方法を使ってマネタイズする事」だ。だが切り札は上記のみ。それでも著者は諦める事無く、特許などアニメーション制作以外の金になりそうなあらゆるファクターを調査したり、人間関係の調整等も含め、会社運営を最大限にサポートする。そしてついにピクサーは「トイ・ストーリー」を完成させ、その後も次々とヒットを飛ばす。最後はディズニーに買収され関係者全員がハッピーな成功を収める。

そこで再度考えてみたい。「何故、著者はピクサーへの入社を決意したのか?」。仕事がやりにくい相手と分かっていたのに。恐らく、その理由はジョブズの仕事人としての魅力だったのではなかろうか?人間的には好きでなくとも「この人がパートナーなら面白い事が出来そう」と感じたからではないか。、漫才コンビが相方を選ぶ時に「仲良し」ではなく「良い漫才が出来る」基準で選ぶように。著者にとってジョブズはそんな存在ではなかったか。一方、ここで忘れてはならないのは、ピクサーはジョブズの私財で運営されていたという事実。ジョブズが途中で「投資や~めた!」とお金をストップしていたら「トイ・ストーリー」は世に出なかったかもしれないのだ。こんな部分にも著者はジョブズの仕事人としての魅力を感じたのではなかろうか?
 
投稿者 sabu 日時 
この本は、ピクサーという会社がどのように誕生したのかが描かれている物語であるが、私にとっては、プロローグで出てきた「中道」という言葉が引っ掛かり、中道という仏教の見方からピクサーを位置付けていることに興味を持った本であった。なぜなら、私は転職を考えており、何を優先させてこの先を進んでいけばいいのか右往左往して、わからなくなってしまっているからだ。よってこの本を読めば、中道という考え方がわかり、自分自身がどう物事を考え、どうしたら自分の内に潜む力や創造性が見えてくるのか、そして自分はどのような選択をしていかなければならないのか、それらのことが一気に解決できる気がして、期待を持って読み進めていくことができた。

この本にはピクサーオーナーのスティーブ・ジョブズのことが多く出てくるのだが、スティーブ・ジョブズと言えば、マルチビリオネアと呼ばれている超大金持ちで、言動が批判されたり、気難しいところがあったりする印象を持つ人物である。そのため、私の中では、他人に対して、一方的に自分の考えを押し付ける堅苦しい人物のイメージがあった。しかし、この本の中では、スティーブ・ジョブズは、堅苦しい人物ではなく、人生の中には中道という考えが必要だとわかって仕事をしている人物ではないかと思えた。なぜなら、本の中で著者やスティーブ・ジョブズは、よく議論し、互いに納得できる結論を出し、ともに歩むことを好んでいるからだ。この本の中ではスティーブ・ジョブズは、反発したり、言い訳に走ったりするような人物ではなく、共に学び、前に進もうとしている。またピクサーの業務を離れ、人の幸せに関する哲学や東洋思想を学びたいと伝える著者に対して、『そういうことをするやつが出てきてうれしいよ』と仕事だけに偏った生き方をしないことに対して、応援する言葉を発している。このことから、スティーブ・ジョブズは、物事は自分の考えが一番であるという堅苦しい人物ではなく、他人のことも尊重する人物であるように思えた。

 そもそも中道とは仏教的にはどういう意味なのか検索してみると、“極端な状態を避けること“、“苦と楽、対極な状態から離れること”、“一方に偏らない穏当な考え方”であると出てくる。したがって、この本の内容から、中道とは一般社会においてはどういうことなのかを当てはめてみるならば、「自分を主張し過ぎず、お互いが成り立つような着地点を見つける」ということではないかと考える。人はそれぞれ様々な考え方や価値観を持っているが、自分の考え方や価値観だけが正しくて、それ以外は間違っているという生き方をすると軋轢や苦しみが生じる。しかし、著者やスティーブ・ジョブズは、結論を導くまでに自尊心を持って議論を重ね、自分とは違った相手の意見にも耳を傾けようとする強い意思をもって、軋轢や苦しみを乗り越えて、状況に応じた選択をしてきている。

私の今までの経験からは、仕事の会議では、全員が自分の意見をなかなか言わずに、議論し合えないことが多かった。また仕事で話し合われることは最終的には二極化となり、どちらかに決定しなければならないという偏った選択を迫られることが多かった。そのため、仕事で論題に対して、みんなが意見を言い、その結果、意見の中道をいく決定ができるというスタイルが取れれば、みんなで作り上げているという意識が芽生え、仕事のやりがいは明らかに増えるだろうと思えた。よって著者が、ピクサーのスタッフの意見の中道をとるようにしていた仕事スタイルこそが、ピクサーの持ち味を活かして大きくするということに成功したのだと思えてならなかった。

現代の社会システムは、社会のルール、社会の常識、社会の価値観などという社会が決めた社会の仕組みにコントロールされ、それから反れないようにしがちである。しかし著者は巨大な会社のように、ピクサーが行きすぎた階層秩序と官僚主義にならないように気を付け、自分たちのチームのやり方に価値を見出している。このことから、社会の決めた価値観や人生観・幸福感だけに流されないで、自分の信念を信じて、人の意見にも耳を傾ける姿勢を持ちながら、熟考を重ねて持ち味を活かした選択をしていくことは、大切な価値観だと思えた。

 最後に、この本から「中道」というキーワードを受け取ったことで、物事を判断するときには自分だけの偏った感情や考えに固執せず、他人の意見も受け入れて、それぞれの状況に適した選択をして、自分ならではの一生を生き抜きたいと考えた。偉業を成すには、そういう姿勢こそが大切であるように思う。また転職するならば、お互いの考えを尊重して意見が言い合える活気ある職場を選択しようと思う。この考えを新年最初の1月に持てた私の未来は明るいかもしれない。
 
投稿者 tarohei 日時 
 本書は、トイストーリー公開前後から1年半くらいにかけての間のお金と権利・契約についての話しで、PIXARがトイストーリーの公開に併せてIPOを達成し、最終的にウォルト・ディズニー・スタジオに買収されるまでのPIXARの最高財務責任者のローレンス・レビーのサクセスストーリーである。

 ここでは、スティーブ・ジョブズの人間像の描写やローレンス・レビーの生き様を通して、仕事への取り組み方について改めて再認識したことや新たな学びを中心に感想を述べていきたい。

 PIXARはスティーブ・ジョブズが設立した会社である。1985年にアップルを追放されたジョブズはNeXTを創設するとともに、離婚慰謝料の支払いで困窮していたジョージ・ルーカスからルーカスフィルムのコンピューターグラフィックス部門を1000万ドルで買収した。
 そのスティーブ・ジョブズがPIXARの財務責任者としてスカウトしたのがローレンス・レビーであり、スティーブ・ジョブズの熱心な説得とPIXARのクリエイターたちの才能を目の当たりにして、PIXARへの転職を決断する。そのローレンス・レビーからの視点でスティーブ・ジョブズの様々な側面を覗き見ることができる。
 スティーブ・ジョブズは周囲からは暴君と言われるほどで、PIXAR社員からの評判は良いものではなかったが、ローレンス・レビーはそういった偏見やスティーブ・ジョブズの感情的で我儘なところに目を向けるのではなく、周囲や家族への気遣い、密なコミュニケーション、強靭な精神力や的確な判断力などを見出していた。
 これらのことから学んだことは、
・自分のことを気にかけてくれている、家族のために行動をしてくれるといった気遣いや言動がお互いの信頼関係を構築すること
・欠点の指摘を素直に受け入れ、前向きな議論をし、諫言に対しても真摯に向き合うこと
であり、人間性の信頼と仕事の信頼の両方を得るものということである。このことは、他人との人間関係の全てのことに共通することなのではないかと思う。
ちなみに、スティーブ・ジョブズの自分の信念を決して曲げない強い意思、相手との交渉においては一切妥協せず自分の意見が通らなければ一歩も引かないという強い姿勢、があったからこそPIXARの成功があったのだろうし、PIXAR売却後、古巣のAppleに戻った後のiMacやiPod、iPhoneの未曾有の成功も納得できる。

 ローレンス・レビーの状況と言えば、PIXARへスカウトされたのはいいが蓋を開けてみると優秀なクリエイターは多数いるが会社は赤字続き、スティーブ・ジョブズとクリエイターや社員達の関係もうまくいっていない、そういった中でできるだけ早急にIPOを実現しなければならないといった状況であった。
 こういった状況下でのローレンス・レビーの対応で特に印象深かったのは、チェスの駒の配置と次の一手をどうするかのエピソードである。
 『駒がいまどう配置されているのか、それを変える術はない。大事なのは、次の一手をどう指すか、だ』
ということを若い頃にメンターから教えられており、そのように考えるように意識していたというのである。つまりこれは、自分でコントロールできることとできないことを明確に切り分けて、自分にコントロールできることに対してだけパワーを注ぎ込み、取捨選択し決断していくということであろう。
 ここからの学びとして、 
・与えられた環境やリソースを嘆いても問題は解決しない
・それよりもどの事業を縮小もしくは閉鎖しどの事業を拡大していくのか、的確に選択と集中を行い、リソースの統合・再分配を実施していくこと
が重要ということであり、改めてその重要性を再認識した。
 これ以外にも学びとして得たものは、ビジネスとして英断しなければならないことと守らなければならない企業理念を明確にすること、戦略策定のやり方として現状分析・本質理解・方針 (戦略) ・事業計画・実行を回すこと、うまく人を頼り目下の者からのアドバイスでも素直に受け入れること、などがある。

 以上のことを踏まえて、本書の読了後、行動を変えてみようと思った。具体的には、相手の欠点ではなく良い点を見つけるようにする、知らないことわからないことがあれば年下だろうが躊躇なく教えを乞うようにする、一日一日後悔のないように精一杯生きる、ことである。一足飛びには無理でも、少しずつ変えていこうと思う。
 そして最後に、心のどこかに迷いがある場合や自らの考えを曲げずに進むべき道を決断する時に勇気を与えてくれる1冊となった。
 
投稿者 mkse22 日時 
「 ピクサー 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」を読んで

本書は、ピクサーという潰れかけていたアニメーション企業がトイストーリという大ヒット作を出して成功し、最後はディズニーに買収されるまでの物語が当事者の視点から描かれたものだ。
著者のローレンス・レビーはピクサーの最高財務責任者である。
本書を読みはじめたときには、著者がどんな苦労をしてピクサーを大きくしたのか、あの気難しいスティーブジョブズとどのような関係を構築していったのかを知りたいと思い、どんどんページをめくっていった。

ディズニーとの交渉の緊迫感、ジョブズの意外な一面など期待通りの展開だった。
特にジョブズがピクサーの資金面のサポートに徹していた時期があるのは正直意外だった。
ジョブズにはもっといろんなことに口を出すイメージが私にはあったからだ。

ところが、途中から話の中心は企業戦士としてのローレンス・レビーではなく、哲学者としてのローレンス・レビーへと移っていく。あまりにも真逆の道に進んでいく著者に私は呆気にとられてしまった。

しかし、さらに本書を読み進めていくと、著者自身は自分は変わっていないと思っているように感じた。
哲学者となることで、これまで無意識のうちに行っていたことに気づいて、それを言語化できるようになったと考えている様子だ。
『自分が体験 してきたさまざまな事柄に中道という糸が知らず織りこまれていたことに縁のようなものを感じてもいる。』(Kindle の位置No.4255-4256)
自身が無意識でおこなっていたことを中道と認識できたことにより、自己を再発見したのだろう。

この中道という考え方は著者にとって思考の基礎となっているものだ。
『本当の意味で空高く舞いあがるには、踏みきる基礎となるなにかが必要だ。我々を導いてくれるなにかが必要だ。』(Kindle の位置No.4246-4247).
ここから、中道は、真実に至るために必要なツールと著者は考えており、真実そのものでとは考えていない。「空高く舞い上がる」とは真実を目指すことを指しており、そこを目指すために必要な基礎が中道を指しているからだ。

ここで、私は中道に関する思い込みに気づいた。(正確には本書を1度読み終わってだが)
私は中道を両極端の考えと同レベルにあるものと理解しており、中道には両極端の考え方に折り合いをつけるという意味での両極端の考え方とは次元が1つ異なるメタ思考しての側面を軽視していた。

私にとって、中道とは乱暴にいえば、両極端の考えを足して2で割った考えで
極端な考えは良くないという前提のもとで生み出されたものととらえていた。

政治でいえば、中道は右派・左派と同レベルの立ち位置のひとつとでなんでも足して2で割る立場と見做していた。どっちつかずの考えとなりがちで結局は両陣営から嫌われてしまう可能性を秘めたものであるが、変化を望んでいない大衆からは支持されやすい立場とも考えていた。

最初、中道をこのようにとらえていたため、本書を一度読み終わったときには、
著者が企業戦士から哲学者への路線変更して中道という考え方に巡り合った経緯を書いた自叙伝という
イメージが強くあった。
しかし、中道を極端な考え方を折り合いをつけるツールとして理解すると、私のなかでの本書のイメージが激変し、この本は、中道というメタ思考とそのビジネスでの応用例が豊富に記載された哲学書と理解した。

著者の考えはこの1文に凝縮されている。
『中道とは秩序と自由の舞いであり、官僚主義と精神の舞い、効率と芸術の舞いである 』(Kindle の位置No.4233).

ポイントは舞だ。舞は1人ではできない。2人が協力しておこなう必要がある。
この点から、著者はこの1文に次のような思いを込めていると考えた。
「2つの相反する考えは両方とも必要なため、切り捨ててはいけない。しかし、ぶつけ合ってはいけない。2つを協力させて、うまく1つに融合させる必要がある。中道はここれらを協力・融合させるものである。」

本書はビジネスの場面で発生した課題(=秩序/自由、官僚主義/精神、効率/芸術の対立)に対して、
中道というメタ思考を使って、これら相反するものをどちらも切り捨てることなく融合させて問題解決していった過程を追体験できる貴重な本であるとも思う。

この視点からもう一度本書を読みなおしたくなった。

今月も興味深い本を紹介していただき、ありがとうございました。
 
投稿者 masa3843 日時 
本書は、トイ・ストーリーの制作を開始した頃から、ディズニーに買収されるまでのピクサーを描いたノンフィクションである。本書では、ピクサーの最高財務責任者であるローレンス・レビーの視点から、オーナーであるスティーブ・ジョブズとのやり取りが数多く描かれている。本書の中で私が印象的だったのは、ジョブズの成長である。本書のP268にも書かれているが、アップルやネクストにおいて現実を無視した経営で失敗したジョブズが、ピクサーでの経験を通じて、事業の現実とクリエイティブの折り合いをつけられるようになったのである。そして復帰した後のアップルでは、iPodやiPhoneといった革命的な製品を世に送り出し、大成功を収めている。ジョブズは、アップル復帰の直前までピクサーの事業運営に関わっており、ピクサーによってジョブズは大きく成長したのではないだろうか。私は、本書を通読して、本書の著者であるローレンス・レビーがこのジョブズ成長のキーマンだと感じた。なぜなら、レビーこそが、最高財務責任者としてピクサーでクリエイティブ性と事業性のバランスをとった中心人物であるからだ。そこで本稿では、本書の中におけるレビーとジョブズの考え方を対比することで、ジョブズがピクサーで身につけたものを探ってみたい。

まずは、レンダーマン販売事業に関する2人のやり取りだ。レンダーマンとは、高画質のコンピューターイメージを生成するソフトウェアで、レビーは需要が少なく市場が小さいことを理由にレンダーマン販売事業からの撤退をジョブズの進言する。ところがジョブズは、映画制作に必要なソフトウェアなのであれば、値段を上げても売れると主張。これに対し、レビーは顧客にとってレンダーマンに代わる代替のソフトウェアがあることを指摘し、結果ジョブズも撤退に賛同した。自社の持つレンダーマンの優位性ばかりに着目するジョブズに対して、レビーは顧客や市場のことを冷静に分析することで、自社製品の客観的な位置付けを明らかにしたのである。

次に、マイクロソフト社とシリコングラフィックス社がピクサーの特許を侵害しているという問題への対処方針だ。マイクロソフトとシリコングラフィックスの特許侵害が分かり、特許を侵害している製品をつぶしてしまおうと息巻くジョブズに対し、レビーはつぶすよりもライセンス料を取る方が現実的だと主張。さらにライセンス料についても、5,000万ドル以上は請求できると楽観視するジョブズに対して、レビーは法廷闘争に持ち込んで高額なライセンス料を請求するよりも、交渉によって少額でも早期にキャッシュを手に入れる方が現実的だと反論した。結果的に、1年以内に両社からライセンス料を手にすることに成功し、喉から手が出るほど欲しかったキャッシュを得ることができた。特許侵害されていること自体に気を取られるジョブズに対し、レビーは競合である両社の状況を見極め、高額のライセンス料を求める法廷闘争が長期に亘ることの方が、映画制作の足枷になってピクサーの足を引っ張ると判断したのである。

最後に、ピクサー上場にあたっての株式の公開価格設定に関するやり取りである。ジョブズは、同時期に株式公開したネットスケープ社よりもピクサーの方が会社としての価値が高く、ネットスケープの28ドルよりも高い公開価格を設定できると主張した。レビーは、注目を集めたネットスケープを基準にして公開価格を高く設定すると、投資家を失望させる結果になる恐れがあるため、控え目な価格設定から始めるべきだと反論している。最終的には、投資銀行側が出した現実的な12~14ドル程度の公開価格で設定した。ここでも、ピクサーの価値を盲目的に主張するジョブズに対して、レビーは堅実な価格設定で調達できる資金が少なくなったとしても、ピクサー株に対する投資家の信頼を醸成した方が長期的に関係者全員の利益になると考えたのである。

以上のように、ピクサーの優位性ばかりを主張し、自社以外に目を向けようとしないジョブズに対し、レビーは自社以外の様々なステークホルダーのことを考えて判断している。レンダーマン販売事業からの撤退にあたっては市場や顧客、特許侵害のライセンス料を巡っては競合、そして株式公開の際には投資家のことを冷静に分析し、ピクサーがとるべき戦略や打ち手を考えてきた。つまり、自社以外のステークホルダーのことを考慮することで、自社の事業について客観的かつ俯瞰的に分析しているのだ。この自社の状況を客観的・俯瞰的に判断する力が、マーケット感覚である。ジョブズは、レビーの思考を間近で見てきたことで、このマーケット感覚を身に付けたのではないだろうか。そして、ジョブズが本来持っていた美的感覚や優れた製品ビジョンにマーケット感覚が付与されたことで、iPodやiPhoneという革命的なヒット商品を生んだのだと思う。そうであるならば、本書の著者であるレビーは、ピクサーにおいて大ヒットアニメ作品を生み出したということだけではなく、iPhone発明の影の立役者であるともいえるのかもしれない。

今月も素晴らしい本を紹介してくださり、ありがとうございました。
 
投稿者 keiji0707 日時 
HN:km2455
この書籍は、ピクサーが身を立てるために、イノベーションを抑えるハリウッド流に染まらず、映画の大ヒットの快挙をもって、前例のない契約をディズニーと取り交わした大成功の新興企業の話である。この輝かしい話で、私は、この書籍を経営者と従業員との間でもがき苦しむ中間管理職の立場で、どのように企業戦略を立て組織をまとめていったのかを考察したい。

この書籍を読んで、私はとてももどかしい気持ちになった。その理由は、著者の置かれた立場が、私自身の現在の立場と重なる部分があったからだ。著者は、ジョブズからの無理難題な指示とジョブズに対する不信感と待遇の悪さに不平不満を口々に言う従業員との間で、板挟みの状態にあった。著者は、日本企業でいうところの中間管理職の立場にあたる。この上司と部下との板挟みの状態は、中間管理職にとって悩みの種で、悲観的になりがちである。ところが、著者はジョブズと従業員の双方の言い分をじっくり聞き取り、客観的な事実を持って最善策を導き出した。著者の調整力と行動力は秀逸だ。

例えば、著者が従業員のストックオプションの割当の増加をジョブズに投げ掛けた場面がそうだ。経営権を脅かされることを嫌うジョブズは、割当の増加に難色を示していた。割当の増加を提言する著者に威嚇する声色になり迫ったが、著者はジョブズのプレッシャーに臆することなく、従業員が納得しジョブズが妥協するぎりぎりの割当の増加分を客観的な数字の根拠を示して説得させたのだ。この割当の増加は、結果的に従業員のモチベーションと連帯感を高め、会社にとってプラスに働いた。また、長年続いたジョブズと従業員の隔たりを改善する大きな転換点になった。このように、ジョブズと従業員が歩み寄れる境界線を見極め、客観的な数字の根拠を持って両者を納得させる著者の調整力と行動力は、中間管理職である私にとって、とても刺激的な場面であった。

また、組織を円滑にまとめるためには、コミュニケーションがとても大切であることを改めて感じた。著者はピクサーに転職して、最初にしたことはピクサーのことを理解することだった。具体的には、各部門の仕事現場を見て回って話を聞いたり、いろいろな会議に参加し、じっくり聞き、分からないことはメモをひたすら取った。そして、部下の話に耳を傾けたり愚痴を聞いたり、時には部下を食事に誘うといったコミュニケーションを取ることで、「自分のことを見てくれている」「話をちゃんと聞いてくれる」と信頼関係を築いていった。このように、部下との信頼関係を築くことで、部下が中間管理職の辛い立場にある上司に対して共感してくれるようになる。

また、中間管理職は上司の方針や考えを実行する能力が求められる。上司からの無理な要求であっても、まずは出来ないと言わず、実行に移してみる努力が必要である。うまく行かないとき、成果が出ないときは原因を分析し、上司に説明する責任がある。この書籍では、会社の成長戦略と株式公開という目標達成のために、著者は、頻繁にジョブズと経営戦略の議論を交わした。納得するまで妥協しないジョブズに疲れながらも逃げずに議論を重ねた姿勢は、より良いものを作るためには、妥協せずに議論を戦わせることを恐れてはいけないことを、この書籍を通して教訓として学んだ。
 
投稿者 str 日時 
PIXAR

素晴らしい才能や技術も、経営戦略なくしては日の目を見る事はなかった。スティーブ・ジョブズが自己資産で何とか留めていたものの、そのジョブズと従業員との関係は最悪だったとも言える。そんな板挟みの状態で立て直しを任されるなど堪ったものじゃない。そこから世界一のアニメーション企業まで飛躍させたローレンス氏の功績は計り知れないものだろう。

もっとも、そんなローレンス氏を突き動かすだけの技術やクリエイター達の存在が前提ではある。子供・ファミリー層をメインターゲットとしたエンタメ作品でも一切の妥協、手抜きのない一級品だからこそ、本気で世に出すべく奮闘できたのだろう。普段何気なく目にしているエンタメ作品も、裏では多額のお金が動き、度重なる交渉、多くの人々の苦悩の下に成り立っているんだなと、改めて感じた。

高度な技術も高品質な製品も、作れるだけ。作っただけでは自己満足の世界で終わってしまう。ビジネスとして取り扱う以上は、販売の方法やその先の展開、資金繰りにも目を向けなければ、作品が手元に残るだけだ。当たり前のことだが、外部の人たちに認知してもらう、評価をしてもらえるということは、作品そのものを作り上げることと同等か、それ以上に難題で手腕を必要とする部分だろう。適任者として、ビジネスパートナーとしてローレンス氏に目をつけ、声をかけたたジョブズ氏もまた流石としか言えない。
 
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投稿者 dmnss569 日時 
流れるようなストーリーで非常に惹きつけられる書籍。ここまで精緻かつ赤裸々にビジネスの経緯を書いてしまって大丈夫なのだろうかと少し心配になってしまった。特に財務上の数値や事業戦略上の数値が記載されており、具体的な数値をよく開示できたなと驚きを持って受け止めた一方で、実際の数値が記載されていることによりストーリーの具体性・信憑性が増しているように感じる。非常に読み易くストーリーが纏められているため一気に読めてしまうが、心にひっかかる内容や言葉が多く何度も読み返してしまった。何度も読み返してしまうほど本書に惹きつけられてしまった理由は大きく三つあると考えている。

一つ目の理由は、スティーブ・ジョブズ氏の素顔が垣間見えたからである。同氏の人となりは、人づてや書籍経由でしか把握していないが、個人的には独断的で感情的な側面が強く、自分の上司だったら大変だろうというイメージを勝手に持っていた。しかしながら、本書に記載された同氏は人の意見を聞き、散歩もたしなみながら部下が入院した際には家族で何度もお見舞いにいくような人情味ある人物で、かなり同氏へのイメージが変わった。

広く知られているとおり、同氏は自分が創設したAppleを一度追い出されている。個人的には同氏の主張が一方的であったり感情のコントロールが行き届かないためにAppleを追い出されてしまったと思っていたが、本書を読む限りではジョブズ氏のイノベーティブな主張を地に足つけた現実的な面からサポートしたり議論できる人物が当時のAppleにはいなかったのだろうと感じた。ビジネスには創造的な人物だけでも、官僚主義的な人物だけでも成り立たず、両方の人材が必須であるという点についてジョブズ氏を中心に丁寧に描かれているが故に本書の内容に惹かれてしまったのだろうと思う。

二つ目の理由は、ビジネスの要諦がわかる点である。本書では著者がPIXARに着任してから発生した重要な意思決定の場面が取り上げられている。ディズニーとの契約更改の交渉、取締役の選任、IPOの時期決定、投資銀行へのアプローチ方法の選択など事業運営上の重要な場面から、ジョブズ氏がPIXARオフィスに執務室を構える際の社内の葛藤と根回しなど、日常よくある情景にも触れられており親近感が湧いた。

その中でも非常に感銘を受けたポイントは、ディズニーとの契約更改交渉におけるPIXARのポリシー堅持である。PIXARブランドをディズニーと対等にせず譲歩すれば、資金面では今よりも格段に有利になるという場面でPIXARはブランド・権利を守ることを優先し、交渉を打ち切っている。本書ではある程度自然な流れで決断出来たかのように記載されているが、もし自分が契約交渉の当事者であったならこの決断は非常に難しいものになったのではないかと感じる。ビジネスは数字の力が極めて強い。先行きの資金難が見えているPIXARが、当面の資金確保よりも数値評価することが難しいブランド・ポリシーを優先するという選択はなかなかできるものではないと感じる。個人でも会社のような集団でも、窮地に追い込まれた時ほど根底にあるポリシーを大切にしなければならないということが本書の言葉の端々に散りばめられており、何度も読み返してしまう程の魅力を感じてしまうのだと思う。

三つ目の理由は、中道とPIXARのビジネスを結び付けて考えている点である。著者が振り返っているとおり、PIXARは『クリエイティブな精神を殺すことなく、戦略や指示命令系統、官僚的な手続き類を導入』してきておりこれそのものが中道の考え方であるとしている。現代は外部環境が目まぐるしく変化しており、企業もクリエイティブな側面を無視し、過去の成功事例だけを踏襲して事業を存続させることが難しくなってきているように感じる。中道のようなバランスのとれた考え方を持つことが企業存続に必要となってきているため何度も本書を読み返してしまったように思う。中道をしっかりと理解することは非常に難しいと思うが、中道という考え方を日頃のビジネスに融合させていきたいと強く感じた。


著者は巻末で中道の道を進むと『真実だと思っていたことは、本当はパラダイムにすぎない』ということが分かるとしているが、この一節は私自身にとって金言であった。普段真実だと思っている事は自分が創り出した虚像にすぎず、真実や現実は超えていけるものなのだという事を再認識した。真実や現実を超えていくためには、自分の心の潜在力や可能性を信じ、その潜在力を引き出す必要がある。そのために人々は「神話」や「しきたり」や「地域行事」など分別・知識の源を大切にして土台を固め、著者のように毎朝瞑想を行ったり、本書の登場人物のように朝日に祈りを捧げたりしながら自分自身と向き合い自分の可能性を限定しないようにすることが大切なのだと学んだ。著者が企業戦士から中道に傾倒したようなドラスティックな決断は難しいかもしれないが、『個人の気持ちや望み、人生をこういきたいという思い』を蔑ろにせずに毎日を大切に生きていきたい。

今月も貴重な書籍を紹介いただき誠に有難うございました。
 
投稿者 charonao 日時 
 本書は、つぶれかけていたピクサーが、『トイ・ストーリー』の大成功をきっかけに、立て続けにヒットを飛ばしていく中で、実務を取り仕切っていた著者に、何が起きていたのかが書かれています。ピクサーを立て直し、株式公開の立役者になったことについては、一見華々しくありますが、短気で気難しい性格を持つ上に、ピクサーへ毎月赤字補填することを苦々しく思っていたスティーブ•ジョブズと、事業にはならないが、素晴らしい技術を持ち、自分たちの仕事に誇りを持っている仲間意識の強いピクサー社員に対して、事業的な問題と芸術的側面との折り合いをつけていった著者の行動や考え方が書かれており、会社員の自分としても学ぶことが多かったです。著者の双方に対しての行動を、自分自身も売上や現場工数を気にする上司と、結束が強くこだわりも強い現場部門への立ち回りに活かしたいと思い、実際にどのような点を取り入れていくかを考えてみました。

 まず印象に残った行動として、筆者は解決すべき問題点について、双方と話し合いの回数を重ねているところです。例えば、ピクサーの人々と話をしたり議論をした結果、打ち解けた話も出来るようになった事、スティーブとはピクサーのビジョンや戦略について、何度も議論していた様子が書かれています。そもそも筆者は、家庭での大きな決断は、必ず夫婦で相談して決めてきたとも言っているように、元々のスタンスとして、話し合いを大事にしてきているのだと思いました。しかし重要なのは、単なる話し合いではなく、お互いが納得できる結論を出すことだと考えます。なぜならば、どちらか一方がその結論について納得しなかった場合、ピクサーが崩壊してしまう可能性があったからです。特にピクサー社員については、きっかけがあれば雪崩を打って流出する可能性があり、会社の立て直しどころではなくなってしまう危険性がありました。また後に、スティーブはピクサーにおける事業や戦略は、どちらかが選んだものではなく、議論で互いに納得できる結論を出したと言っており、ここからもその重要性が伺えます。それでは納得できる結論を出すためにはどうすべきか。それは、双方の譲れない点を理解することだと思います。筆者はピクサー着任時のパムの話より、ピクサーの文化を壊さないこと、ストックオプションが重要だと理解しています。著者がストックオプション問題の解決に動き出した際、入社時にごく低価格でもらえるはずだったストックオプションを早く渡してほしいと思っている社員と、持ち分の減少幅をなるべく小さくしたいスティーブとの間で、落とし所をうまく見つけることが出来たのは、双方との話し合いにて、お互いの譲れないラインを筆者が理解していたからだと言えます。

 また話し合いだけではなく、信用を得ていく事も重要だと思いました。信用を得るには時間の積み重ねが必要なので、まずは疑われるような事をしないことだと思います。筆者自身も入社時、ピクサー社員からの疑いを避けるには、ああやっぱりと思われるような事をしないのが一番だ、と言っています。筆者は入社当初にスティーブ派と言われ、警戒されていましたが、疑いを避けるために具体的にどのように立ち回ったか。一例として、突然スティーブ・ジョブズがピクサーに顔を出したいと言い出した際、ピクサー社員へ、スティーブの役割や来社目的をはっきりさせたことです。スティーブはピクサーのオーナーなので、出社すること自体は全く問題ないにせよ、ピクサー社員が文化を壊されるとの不信感をいだいているこの状況で、出社する目的をはっきりさせなかった場合、ピクサー社員から、あいつはやっぱりスティーブ派だ、という不信感を持たれる可能性があったと考えます。ストックオプションの問題についても、IPO実現時に、ピクサーの誰も期待していなかったレベルまで株価が上がったことで解決することが出来たと考えていますが、これによりピクサー社員からの信用を確実に得る事が出来できたのだと思います。

 結論として、これらの行動の積み重ねにより、仕事の人間的な側面との釣り合いを取ることが出来るのだと思いますが、さらに必要だと感じたのは、現場のことを最優先に考えて決断する事です。上場後にクリエイティブ面を拡充するにあたり、クリエイティブな側面の決断について、著者自身が制作の予算も締め切りも管理できなくなる危ういやり方にも関わらず、クリエイティブチームへ完全に任せることにしています。この決断は現場への正確な理解と信頼がなければ出来ないことだと思います。ピクサー文化を壊さない配慮や、ストックオプションの問題を解決することは、ピクサーの最高財務責任者の仕事としてやるべき範囲だと思いますが、このような仕事の範疇を超えた理解や信頼が、ピクサーを成功へ導いた要因の一つだと思います。
 
投稿者 eiyouhokyu 日時 
「ピクサー 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」を読んで

この本は、ピクサーを軌道に乗せた当時の財務責任者だった著書の経験を、まるでドラマのように私たちにストーリーを伝えてくれる。働いている中でぶち当たる難題。その解決を望む上司。一方で、会社のトップに不信感を持つスタッフたち。板挟みに合い事態は難局を迎える。さらに大企業と締結した契約は、数年間搾取されること必須の絶望的な内容。
しかし、一つ一つ戦略を立てて解決していく財務責任者のローレンス。ついにピクサーはトイ・ストーリーとIPOで成功を収め、赤字続きの小さな企業が一躍大金を手にすることができるのだった。こういった話は、池井戸潤の小説にもありそうで、私たち企業戦士が好むストーリーだ。

しかし、著者が本当に言いたいことは第Ⅳ部新世界への第25章以降からだと思う。第24章までは壮大な前振りで、大きな共感を持って読み進めた読者は、自然な流れで大事な部分である25章以降の話を読む気になれる。この順番が逆であったら、読者は興味をもって読み進めることができないと思う。何故なら、哲学、精神、宗教、東洋思想、瞑想といった話は企業戦士には馴染みがない世界で、冒頭からこの話がきたら読者は怪しいと思い、警戒心を持ってしまう。ビジネスの場ではこういった話は触れてはいけないし、話すことも憚られるからだ。

さて、著者が「ピクサーは中道の考え方そのもの」であると言ったことについて、私はとあるお風呂と共通点があると感じた。忘我の湯と呼ばれるお風呂である。忘我の湯というのは、ある温浴施設の浴槽の名称であるが、温度帯が不感温度と呼ばれる人の体温に近い温度で、リラックス効果があるためこの名が付けられた。入ると、熱くも冷たくもなく、我を忘れてしまうほど長く浸かっていられる。この温度帯のお湯は、貯湯槽にためられた60℃のお湯(レジオネラ菌が繁殖しないよう60度以上と決められている)と水をミキシングバルブで調整して作られている。

私はピクサーでのクリエイティブな芸術的側面を60℃のお湯、事業的問題を水に例えて考えてみた。この2つをミキシングするということが「中道」であり、ピクサーのしてきた判断になると考えた。お湯のミキシングは、外部環境によっても調整のバランスが変わってくる。外気温が低く水の温度が低ければ、ミキシングでのお湯の量は増えるし、外気温が高くければ、お湯の量は少なくて済む。同様にピクサーは、外部環境と内部環境を絶妙なバランスで舵取りしてきた。

ピクサーは最初芸術的な側面(60℃のお湯)しかなかった。しかし、60℃のお湯では誰も入れないように、熱量はあり努力はしているのにお金の面では成功していないという状況だった。加えて、どうしたいのか(設定温度を何℃にしたらいいのか)誰も分からない状況だった。そこで著者が行ったのは、事業的問題を解決する(水を入れて温度を設定する)という方法だ。
ただし、いきなり一発で中道になれないように、設定温度のお湯を作るには、バランスをとりながら少しずつ水を加えて設定温度に持っていくしかない。温度を下げすぎないように、注意をしながら、慎重に事を進める。このような作業(水を加える調整)を著者は、収益の芽として特許を取得し、契約の見直し課題と解決策を見つけ、見えないものを見えるように段階的に一つ一つを具現化していった。そして、トイ・ストーリーの成功、ディズニーとの契約の見直しで、丁度良い温度に仕上がったのだ。

中道は一発でできるものではない。両方のお湯が必要なように、両方の考え方があっての中道なのだと思った。そして、私個人が中道でいようとしてできることではなく、多くの人と関わり、意見の違いを体験することなしに中道を理解することは難しいことを実感した。意見を言い合える仲間や環境がないことには、分かった気の中道にしかならない。

では、意見を言い合う仲間や環境はどのようにして、作ればいいのだろうか。昨年横浜市のIR問題について、塾生メンバーで意見交換をしたことが私にとって有意義な体験の一つだった。Twitterに投稿していたら、恐らく荒れるだろうセンシティブな内容なので、投稿には勇気が必要だったが、塾生なので良識のある人たちばかりという安心感があった。10人近い回答があり、面白いことに、結果は賛成と反対に割れたのが興味深かった。どちらが正解ということもなく、同じような価値観の仲間でも、異なる意見を持っているということが新鮮だった。

意見を求めるのも、意見を言うのも人間関係が損なわれるのではないかと不安になり、怖くなる。しかし、その恐れを超えた先にある相手に対する信頼感と、異なる意見を聞いて調整をしてバランスをとるということは、私にとって新しい世界を見せてくれる大事なヒントであると思った。

今月も良書を紹介していただき、ありがとうございます。
 
投稿者 soji0329 日時 
「PIXAR(ピクサー)」ローレンス・レビー著を読んで


本書におけるキーワードは、2つ。プロローグにある『ストーリー』と、第26章で出てくる『中道』です。これらに注目し、著者、ローレンス・レビー氏が読者に何を訴えようとしているのか、考えてみました。

ピクサーで見せられた「トイ・ストーリー」の冒頭数分間。そのストーリーに魅了され、転職を決意したローレンス氏。転職後、ピクサーの実態を知るにつれ、ローレンス氏は激しく後悔することになります。しかしもし先に実態を分かってしまったら、絶対に転職はしなかったでしょう。リスクを取る。まずはこれがキーポイントであると私は読み解きました。少し話は飛びますが、ゴールドマン・サックスもモルガン・スタンレーも、結局はリスクを取らず、投資銀行の座を他行に譲ることになり、イノベーションが起きづらい文化を持った大企業の弱点をさらすことになります。失敗はしないけれど、ストーリーも始まらない。そのことを本書では教えてくれています。

さて、ピクサー派かスティーブ派かと詰め寄られて、スティーブに不信の目を向けるローレンス氏ですが、ここで妻ヒラリーが言った「これはふたりの問題よ。だからふたりで解決しなくちゃ」にも大きな意味を感じました。それはスティーブと対決姿勢になろうとしていたローレンス氏を諫めた言葉だからです。敵対する相手はスティーブではない。では一体何なのでしょう。その相手を知るために、自分を、そして自分を取り巻く環境を理解する。そして、自分が何を行い、どこに向かうべきなのかを見極めることが、ストーリー作りなのだと理解しました。

ピクサーの大きな問題。それは事業方針、つまりピクサー・ストーリーが無いことでした。ローレンス氏はこのストーリー作りに動き始めます。ここで大事なのが『中道』という考え方です。ローレンス氏は中道を、自分の中に官僚とアーティストの二極を見出し、どちらにも偏らない両者の折り合いをつける、と例えています。二極を見出す。ローレンス氏は対立している二つの極は何かを探り始めます。分かったことは、スティーブ対ピクサー古参社員、クリエイティブ対収益構造、そしてピクサー対ディズニー、などなどです。

ここで私は、中道の考え方の大きなポイントを考察してみました。それは俯瞰の目です。二極両者の折り合いをつけるためには、二極が立つステージから離れ、両者を同時に眺められるまで視点を高めることが不可欠です。ローレンス氏が俯瞰のために試みた様々なこと。識者やメンターへの相談。関係資料の収集もさることながら、スティーブとの散歩、ヒラリーや子どもたちとの会話もそうでしょう。はっきりとは書かれていませんが、どこかの時点でローレンス氏は、ヨガや瞑想、そして東洋哲学の中道に出会ったと思われます。二極をホワイトボードに掲げ、それぞれのポイントを列記していく整理法は、中道の考え方によるものと推測できます。

自分を俯瞰し、中道の考え方でストーリーを作っていく。この二極の中に自分がいてしまう場合もあるのですが、そうなるとどうしても様々なことに翻弄されます。事実、ローレンス氏もストックオプションの問題、取締役の招聘、投資銀行の選定など、色々な問題に悩まされました。そうした中で私は、彼がとても無私無欲な人間に思えてきたのです。無私無欲とは、中道を体現するリンポジェ氏を表現した言葉ですが、私は、ローレンス氏にも当てはまると考えます。ピクサーの文化を守るためにクリエイティブ面はジョンのチームに任せると判断したこと。社員にもスポットライトを当てるよう、エンドロールに名前の記載を実現させたこと。これらのエピソードもまた、ピクサーを第一に考え、己の欲を捨てて人を信じ、人を厚遇する彼の誠実さが感じられます。

そして、ストーリーを成功裏に終わらせるポイントにも考えさせられました。ピクサーの、株価絶頂段階でのディズニーへの売却です。スティーブがアップルに復帰したこと、癌と診断されたこと、さらに、ディズニーのCEOが替わったことを合わせて、ベストなタイミングでベストな条件で売却にこぎつけたのはローレンス氏の賜物でしょう。ここでも欲にとらわれず、ピクサーとディズニーの二極を、中道の考え方で冷静に判断した結果であると言えます。が、同時にこれはローレンス氏にとってのピクサー・ストーリーを終わらせることでもありました。

一つのストーリーを終わらせる前に、次のストーリーを準備する。企業戦士から哲学者へ、ピクサー・ストーリーからローレンス・ストーリーに替える決断は、闘病中のスティーブから来たのかもしれません。あれほどの富と名声を手に入れながら、病に倒れ、ストーリーに幕を閉じなくてはならないスティーブ。ピクサーで学んだストーリー作りと中道の考え方を一般的な人に対して広めていきたい。それが自分の本当にやりたかったことだと分かった時、命あるうちに実行に移すべきと考えたのではないでしょうか。

ローレンス氏が立ち上げた新組織ジェニパーや瞑想センターは、人間性に秘められたすさまじいばかりの可能性の解放が目的だと言います。その活動の中核にある中道の考え方を本書で垣間見ることができました。私も瞑想を通して、自分の中の可能性を探ってまいります。そしてあらためて、自分のストーリーを見直し、作っていこうと思います。
 
投稿者 ynui190 日時 
あのピクサーの物語だ。

人は、成功している会社を見ると往々にして、何の苦労もなくラッキーを手に入れたかのように錯覚する。
ピクサーもご多分に漏れない。
特に彼らが作り出す映像はマジックとしか言えないのだから、余計にそう感じる事だろう。
財務の話なんて、クリエイティブなピクサーの物語から一番ほど遠い。

筆者のローレンスがCFOに着任した当時、ピクサーは多くの問題を抱えていた。
これまで誰も観たことのない映画の創造、それに伴う時間=人件費は莫大で経営を圧迫する。
尚且つ、ジョブズと社員との関係は悪く、既にディズニーと契約済みとは言え、契約条件は良いとは言えない。
それ以上にローレンスはこの業界のことは知らない。

では、ローレンスはどのようにしてこの物語を成功へと導いたのであろうか。
そこには当たり前だが、なんのマジックもラッキーも存在しない。
本人の言葉を借りれば、
『私は配られた手札を嘆いていても始まらないと若いころに学んでいる。〜中略〜
「駒がいまどう配置されているのか、それを変える術はない。大事なのは、次の一手をどう指すか、だ」と教えられ、そう考えられるように意識してきた』と書かれている。
こららの文章が全てを表しているのではないだろうか。
その手段は様々あるにしろ、覚悟がなければ何事もやり抜くことも出来ず、深く考えることもないのではないだろうか。
ラッキーは存在しないと書いたが、ローレンスのそのメンタルが周りからラッキーと思われることを引き寄せているのであろう。

私はどうだろうか?
自分の置かれている環境を嘆くばかりで、何か策を講じただろうか?
何か現状が良くなるように努力しただろうか?
答えは「出来る限りやっている」という曖昧なものであり、必ず何かしら全力で出来ないことへの言い訳が用意されている。
それはそのまま私の人生に投影されていることを意味すると気づく。

それぞれの環境の規模は違うにしろ、問題の大小はあるにしろ、立ち向かう人間のメンタルや考え方が結果に大きく反映される。
この本を読んで、さらにそのことに気づけて良かったと思う。

自分の人生はその時その時の判断が形造っていると思っているにも関わらず、考え抜いただろうか。
わかっていると思っていたことをこの本で改めて教えてもらったように思う。

もう一点、作中ローレンスは仏教でいうところの中道という思想に辿り着く。
この場合の中道とは、商業的な成功を求めるあまり、経費の掛かる創造的なピクサーのやり方を無視することでも、創造的なピクサーのやり方を求めるあまり、会社の利益を無視することでもない。

中間という思想自体、私には難しいものがあったのだが、ひとつわかることはローレンスは中道を目指して行動していたわけではなく、その時その時に於いて、最善の一手を取ってみたら結果として、中道だったという事ではないだろうか。
繰り返しとなるが、その時その時に深く考え、その時に最善の一手と思われることを選択する。
選択した後は自分、または周りを信じ行動する。
大切なのは、やり抜くことなんだろうと思う。

ピクサーのCFOを退任後、ローレンスは中道思想をきっかけにこれまでとは全く別の道へと進んでいく。
それは全力でやり抜いたローレンスだからこそ、たどり着いた道ではないかと思う。
そこには富と名声を得たピクサーを離れる迷いや不安はない。
それどころか新しい道へ踏み出す高揚感すら存在する。
もちろん、ピクサーを導いたのはローレンスだけではない。
ジョブズを始めピクサーの面々、家族や友人の協力も大きく、ピクサーは関係者全員が一緒に築いたものだという事もわかる。

それでも、成功を導いたのは、現状に嘆くことなく、常に最善の一手を考えるローレンスの心のあり様ではなかったかと思う。

この本はピクサーの物語だ。
ただ、本を読み終えた今、私の物語でもあるとも思える。
そう言えるように今から行動していこう。
 
投稿者 vastos2000 日時 
本書を最初に読んだときは、単純に面白い企業ドラマとして読んだ。そして「はて、この本から何を学べばよいのだろう?」と思った。
そして2巡(2読)目、本書は智の道を歩んでの願望実現の実例が書かれた一冊であると解釈した。


本書で描かれている成功への道のりはロジックだけでは説明できない。幸運に恵まれた場面もいくつか登場する。特にIPOの準備の時、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスに振られた後、『幸運が必要だ――2回も』とあるが、その2回の幸運を呼び込んでいる。後日談として語られているところによると、ロバートソン・スティーブンスがピクサーIPOに乗るか否かの場面で、載るという決断を下す際、著者の存在が決め手になったというのも、著者が呼び込んだ幸運の一つではないだろうか?

そもそもピクサーに入社するという決断は、損得勘定や理屈の上からは導き出せないのではないか。その当時の職(EFI社の副会長兼最高財務責任者)を捨てて、先行きが危ういピクサー社に転職する決断を下すのはロジックでは説明できない。いくら技術力があるからと言って、それだけでは商品が売れない例は当時でもいくらでもあったはず。
それでも著者は転職を決意した。(それを止めない奥さんもすごい)


さて、思い切って転職したわけだが、著者は、スティーブ・ジョブスから、ピクサー社を株式公開までもっていくこと(IPO)を期待されに入社したので、まず実現したい願望はIPOを果たすことであろう。これはオーナーであるジョブスも、ストックオプションを(最終的には)持っていた社員達のも願っていた。
こう書くと、ピクサー社員一同が共通の願いを叶えるために一致団結したかのようだが、本書を読めばわかるとおり、両者の関係は著者が入社した時点では悪かった。
第1章に、ジョブスは「ピクサーはハードウェアを開発する会社のつもりでジョージ・ルーカスから買い取ったのであり、ストーリーを語る会社など欲しくなかった」という意の記述がある。おまけにとんだ金食い虫で5000万ドル近くも投下したのにまだ赤字状態というのでは、ジョブスがピクサーにいらだちを覚えるのもわかる。

最終的には『戦略、財政状態、法律、市場環境がぴったりかみ合う奇跡のようなことが起きないと実現できない』IPOも現実化し、ジョブスと社員の関係も改善されるのだが、両者のベクトルを同じ方向に向けていく点を著者は『創造性と現実の折り合いをつける』と表現したのだと思う。その過程で『クリエイティブな精神を殺すことなく、戦略や指示命令系統、官僚的な手続き類を導入』することができたわけだ。(p305)

その結末に至るまでの間、基本的に著者は縁の下の力持ちだったようだ。エンドクレジットの一件が象徴的だが、映画製作に直接関わっていない他のスタッフも名前が載ることになったのに、著者だけは載らなかった。
それにも関わらず、劇場でピクサーの映画を家族と一緒に見る際も、エンドクレジットを最後まで見て、支援部門のスタッフの名前が流れる際は目を輝かせている。
また、IPO直後の株価が高騰した時も、『謙虚で革新的な天才たちがどれほど辛抱強くがんばってきたのかを思うと、これほどうれしいことはない』と、まず自分のことではなく他人のことで喜んでいる。
もちろん、著者自身も最終的には文学や科学、東洋哲学の勉強に専念できるような現実世界の成功を手に入れている。ピクサーが成功したので著者自身もハッピーになっている。

もう一つ、縁の下の力持ちだった例を挙げる。エド・キャットムルが著わした『ピクサー流創造するちから』(ダイヤモンド社)を読むと、ローレンス・レビーの名は登場しない(謝辞で挙げられる多くの人物の中の一人として名前を見つけることができる)。エド・キャットムルはIPO前のロードショーもジョブスと一緒に各地をまわったと振り返る。
この本は書名の通り、クリエイティブ面にスポットを当てた一冊なので、財務面を担当していたローレンス・レビーが登場しないのはもっともなことかもしれないが、同じ時期の同じ会社のことが書いてあるのに、視座や視点が違うとこうも見えるものも違うのだなと、あらためて「人は自分が見たい(関心がある)モノを見る」と感じた。(ジョブスの印象が強烈過ぎて、他のスタッフの印象が薄くなってしまった可能性もあるが・・・)

ここで、本筋からは少し外れることを書くと、本書(PIXAR)では、登場人物を実名で書いているシーンが多い。2読目には複数回登場すると記憶していた人物をメモしながら読んだが、メモした人数だけで23名。そのほかにも登場シーンが一場面のみの人物もいるので、総数としては倍近くになるだろう。エンドクレジットと同じで、単に「技術ディレクターを新たに雇った」と書くのではなく、実名入りで書いているのも相手に対する配慮だろう。


閑話休題。もちろん、法律や財務、会計といったビジネス上の知識や経験があった上で、著者の人間性や考え方があったおかげでピクサーも著者自身も成功へ至ることができたのだと思うが、ビジネス上の能力だけを見れば、おそらく著者と同等の実力者はいただろう。もしかしたら、ジョブスは他の者にも声をかけていたのかもしれないが、著者を仲間にいれたことがジョブス最大のファインプレーだったのではないだろうか。結果論にはなるが、ピクサーの成功がなければiPodもiPhoneも開発することができなかったのだから。

以上のように、著者が智の道を歩んだことが成功の理由であると私は解釈した。
私は、日々、思い通りに行かない(というよりは、相手のやっていることのレベルがあまりにも低いと感じてしまう)ことや、度々下される理不尽と思える上からの指示に接していると、つい感情に流され、智の道を忘れてしまう(あの人は早く定年になれば良いのにと思ってしまう)。
そんな私に本書は智の道を思い出させてくれる一冊だった。感謝。
 
投稿者 LifeCanBeRich 日時 
本書を読んで最も印象に残ったことが2つある。1つはピクサーの驚愕とも言えるビジネス的な成功、そしてもう1つが著者ローレンス・レビーの人生における価値観の変化である。まず、ピクサーという会社は優れた人材を抱えながらも赤字が続くアニメーション映画制作会社であったが、ローレンスの加入により、まずIPOに成功し、更にはディズニー・グループへの加入でスティーブ・ジョブスの投資した5000万ドル(50億円)が130億ドル(1兆3000億円)になるほどの成功を遂げた。一方で、ハーバードのロースクールを卒業したバリバリの法律家であり企業戦士であったローレンスは、本書の終わりでは東洋思想を学び、瞑想を広める団体を立上げ、その運営に携わっている。本書の最初と最後で比べれば、ピクサーもローレンスも普通では考えられないような激変を遂げている。そして、本書を読むとピクサーとローレンスの激変ストーリーの共通項は中道という考え方にあることが分かる。ピクサーの中道とは、創造性、技術性に優れたアニメーション制作という事業の側面と資金調達、事業マップロードの作成という現実の側面の折り合いをつけたことであり、ローレンスの中道とはビジネスという競争の中で重要視される論理や効率、合理性の側面と人生において重要視されるアイデンティティや意義という感性の側面の折り合いをつけたことである。本稿では、その2つの激変ストーリーの鍵となる中道とは何か、更に、人生において中道を取り入れる方法を考察する。

まず、中道について考える。中道の語源はサンスクリット語のMadhyamā-pratipadで、『Madhyamā』は“子宮”、『pratipad』 は“始まり”という意味を持つ。よって、語源的には事象や現象の“根源”を考える、立ち返るという概念のようだ。そして、仏教用語としての定義は、「2つのものの対立を離れていること、不偏にして中正なる道のこと」となる。ここで注目したいのは、中道の『中』とは、「2つのものの中間ではなく、2つのものから離れて矛盾対立を超える」という意味であることだ。例えば、ピクサーの創造性、技術性に優れたアニメーション制作という創造的な事業面と資金調達、事業マップロードの作成という合理的な現実面は共に、抽象度を上げて見ると“根源”的な目標は、成功に達するということになる。しかし、ピクサーは必ずしもその事業面と現実面の折り合いをつけるために、それらの中間を取っているわけではなく、創造的な事業面をより重んじている。それは、“クリエイティブな判断をジョンとストーリーチームに任せる”(P.218)という予算超過リスクという現実面で非常に重要な事象を犠牲にしてまで、創造性を大事にする経営方針を採っていることからも分かる。もしも、事業面と現実面の中間を取る経営方針であれば、それは創造性という他の追随を許さないピクサーの特性を奪うことになっただろう。

では次に、ピクサーやローレンスのように中道を取り入れて、激変を遂げるにはどうすれば良いのだろうか?私は、そのためには2つのことが重要だと考える。1つは、自身の中に核となる分野を確立すること、そして、もう1つが、その確立した分野とは違う分野を見つけ融合していくことだ。まず、自身の中に核となる分野を確立するとはどういうことか?それは、好きなことや得意なことを追求し、究めようとすることである。ピクサーの核となる分野とは、独自の創造性と技術力でアニメーション映画を制作することであり、ローレンスの核となる分野とは、法律や財務の知識を使ったビジネス戦略の立案、計画と実行だ。そして、ここで重要なことは、その分野をどのくらい追求しているかの度合いだと私は考える。なぜならば、その度合いによって、中道を取り入れた時に起こる変化の振れ幅の具合が異なってくるからだ。例えば、ピクサーに来る前のローレンスは論理や効率、合理性の側面からビジネス戦略の立案、計画と実行を徹底的に追求し、結果を残すことで自らの核となる分野を確立していた。それが故に、ローレンスはピクサーに来て見たこともない創造性、技術性に優れたアニメーションという未知なる分野、そして、そこに携わるスタッフの価値観や人間性に触れた時に、自らの人生の在り方まで考え直すキッカケとなったのだと思う。

最後に、中道を取り入れて人生に激変を起こすための、もう1つの重要な要素である、確立した分野と違う分野の融合について考える。違う分野の融合とは、ピクサーの場合は資金調達、事業マップロードの作成、ストックオプションなどのビジネス戦略を新たに取り入れたことであり、ローレンスの場合は人生におけるアイデンティティや意義を大事にするという価値観や感性をより重要視するようになったことである。ただし、違う分野の融合とは、言うは易く行うは難しなのだ。なぜならば、人は自身の信念や思想、価値観や行動は正しいものだと思い込みやすく、その状態にある場合、外部から違った物事の考え方、在り方が提示されても受け入れづらい傾向にあるからだ。では、どうすれば良いのか?そのヒントは、本書を通してローレンスが示してくれている。それは、ローレンスの自身の視点に執着することなく、接する他者や物事には異なる視点があるということを常に認識、理解、尊重する姿勢や態度、振る舞いである。例えば、気難しいスティーブ・ジョブスが一度もローレンスに強く当たったり、吊るしあげたりもせず、絶えず敬意を払い一緒に歩むという姿勢をとったのはなぜか?それは、ローレンスのスティーブの意見に常に耳を傾け、その置かれた立場を理解、尊重しようとしていた姿勢や態度が相手に伝わったからではないか。仕事でも、ディズニーとの契約条件の変更を検討する際、ピクサーからの視点だけでなく、ディズニーからの視点を徹底的に考察している点からも、自身の視点に執着することなく、異なる視点を意識していることが伺える。


~終わり~
 
投稿者 sarusuberi49 日時 
本書は、著者であるローレンス・レビーが生きる目的を探す旅に出て、様々な苦労の末に「中道」という考え方を発見し、再出発する過程を綴ったヒーローズジャーニーであると言える。「中道」とは仏教の教えで、怒りや貪りなどの悪い煩悩を滅し、心の平安を得る方法とされている。私が驚いたことには、ピクサーの奇跡的な成長の根底には、ローレンス・レビーが知らず知らずのうちに探求していた「中道」の考えかたが存在していたのである。私は、賢く社会的な成功も十分に収めていたローレンス・レビーが、複数の「辞めたほうがいい」というアドバイスや不安要素にもかかわらずピクサーに入社するのは、非合理的な判断であり不可解に感じていた。自分自身の「直感を信じて」入社を決断してしまうとは、優秀な企業戦士としてリスクが大きすぎるからである。しかし、思い切ってピクサーに飛び込んだことが、その後「中道」という考え方を知り、ジャスパーを立ち上げるための布石になっていたのである。

私がそう考えた理由は2つある。1つ目は、ピクサーでの思慮深い気配りである。ローレンス・レビーはピクサー社内の派閥対立に困惑し、制作部門や管理部門のスタッフの想いを受け止め、現場とトップの板挟みになって苦悩する。そんな彼だからこそ、誰の想いも切り捨てない方法を辛抱強く模索し、関わる全ての人達にとっての中道を探し当てることができたのではないだろうか。人間誰しも欲があり、利害を巡った対立するのがビジネスの常である。しかし中道を探ることで、精神的な充足感だけにとどまらず、ビジネスにおいても奇跡的大成功を得られたのである。それはローレンス・レビーの努力により、多くの人からの応援波動があったからこそと思われる。

2つ目は、株価が上がりすぎている時期に、ピクサー売却の決断ができた点である。初期の頃、素晴らしい才能に溢れているのに認められていないピクサーを、正当に評価してもらうための血の滲むような努力は、企業家ならば誰でも想定することだと思う。しかし、大成功を収め、実力以上の高評価を受けたとき、「高く飛びすぎて太陽に近づいている」と判断して方向転換出来る経営者はそう多くないように思われる。高い評価に見合う実態にしようと、さらに仕事に精を出し、どんどん会社を大きくしたくなるのが経営者の常なのではないだろうか。このタイミングでディズニーへの売却を決断し、スティーブ・ジョブスに進言できるという点で、すでにローレンス・レビーはビジネスマンであると同時に哲学者でもあったように思われるのである。

対するスティーブ・ジョブスは、ビジネスで大成功を収め、経営のカリスマとしての名誉を得て、精神世界への憧れを抱きつつも、哲学者への転身を考えることはなかった。ピクサーの成功でマルチビリオネアとなった後も、「無限の彼方へ向かって成長し続ける道」を選択し続けたのである。その過程ではスピードや効率を重視し、ミスに対して厳格になることもあったという。結果的に、道半ばで病に倒れてしまうのだが、私には、猛スピードで無限に増殖し続けようとする癌細胞の姿が、驚異的なイノベーションを次々に達成し、果てしない成功と成長を続けようとする、スティーブ・ジョブスの思考に重なるところがあるようにも感じられるのだ。

スティーブ・ジョブスとは違う道を選択したローレンス・レビーは、ピクサーを離れ「人の幸せに関する思想哲理の探求」を目指し、瞑想の師とめぐり合う。そして伝統と現代との融合を目指すという新たなチャレンジに夫婦で踏み出してゆく。その後は子供達の成長を見守り、古巣であるピクサーとの交流を続け、効率よりも人間性を重視し、豊かさを人々の間に循環させて今に至っている。もともと弁護士として何不自由なく暮らしていたローレンス・レビーが「直感を信じる」という人生を選んだことが、実は未来に繋がっていたという結末に心から納得できたのであった。

ローレンス・レビーとスティーブ・ジョブスの対照的な生き方を比較して私が思うのは、「中道」を目指すには、まず心を富ませる必要があるということである。心に不安やトラウマがあるうちは、どれほどの財産や名誉を得ても、満足できず、際限なく欲しがってしまうのではないだろうか。私自身、時間に終われるサラリーマンであるが、そんな忙しい日々においても家族や友人のために時間を使い、読書や瞑想などで自分の心の襞を豊かにし、平安な心を目指すべきであるとの想いを強くした。つい周囲と比べてしまい、足りない所に目を向けがちな毎日であるが、ビジネスの世界に身を置きつつ思考を深めたローレンス・レビーを見習い、今後は内面の豊かさについて、より広く深く探究してゆきたい。
 
投稿者 jawakuma 日時 
PIXAR ローレンス・レビーを読んで

スタートアップがIPOを迎える軌跡を、財務面からクローズアップした真実の物語。ジョブスがビリオネアになったのはAppleでもNEXTでもなく、PIXARだったとは驚きだ。Disney映画をCGで作る3Dアニメーションの会社としての知識しかなかったが、トイストーリー前は赤字企業だったとは。そしてそれを支えていたのがスティーブ・ジョブズだった。

ローレンスはPIXARのCFOだ。最高財務責任者である。こういったいわば事務屋の書いた書籍は珍しい。ジョブズのようなカリスマ経営者や花形プロダクトの開発チームやマーケティング関係のメンバーにスポットがあたることが多いからだ。だがIPOの場面ではローレンスのような、財務のスペシャリストの手腕が大切なのだ。投資銀行との関係構築や取締役会のメンバー招集など、ローレンスがいなかったら立ち行かない場面がいくつもあった。IPOというすべてのスタートアップが夢見るステージがどのようなフローで行われ、その間にその会社でどんな動きがあるのかを垣間見ることができ興味深かった。まあPIXARのように大成功のIPOは例外であることはさておき。

●ヒット作連発の仕組み
PIXARの赤字時代を5000万ドルもの私財で支えていたのはジョブズだが、本著でも度々記述されていたように、PIXARのイノベーションを支えていたのはクリエイティブチームだ。P111に書かれているようにオリジナルの物語をそれまでには無かったレベルのコンピューターアニメーションで描き出すのだ。こういった新しい分野のイノベーションはPIXARのようなスタートアップから始まる。大きな会社は守るべきものが多すぎ、新たなものに挑戦する文化が廃れてしまう。ハリウッドまでもがそうであったように。
ジョブズやローレンスをはじめPIXARの経営陣が優れていたのはイノベーションの文化を守ったところだ。その効果が上場後もヒット作を連発させる結果へとつながったのだ。

●クリエイティブを現場に任せる
P213ではIPO後のPIXARでもストーリーはクリエイティブチームに一任することが決定されるシーンが書かれていた。CFOのローレンスさえハリウッドやDisneyのやり方に倣わず、リスクをとって任せることに同意するのだ。シリコンバレーのハードやOSのスタートアップとは異なり、エンターテイメント業界で“素晴らしい物語を生み出す”という価値の源泉を現場にゆだねたのだ。PIXAR文化をよく理解していたとはいえ、トイストーリーとIPOの成功を経た後で、良く守りに入らなかったものだ。

●ブランドを守る
Disneyとの再交渉ではブランドを守るという4本柱の一つにこだわり、喉から手が出るほど欲しい条件を投げ打って交渉を蹴る道を選ぶ。あの高飛車で有名なDisneyが自らは交渉を更新する必要が無いのにここまで譲歩してくれているのにだ。正直クレイジーだと私は思った。ブランドロゴの大きさなんて自分たちの自己満足にすぎないではないか。そう自己満足。それが大切なのだ。長きに渡りギリギリの状態で努力を惜しまず働き続けた社員達にとってそれが心の支えになっていたのだ。もし仮に、ここで折れ、Disneyブランドのおまけのような位置づけに甘んじていたら、条件面は改善できたが、社員達のモチベーションは維持できず、社員の流出や品質の低下へとつながってしまったかもしれない。

これらの点は自分や自分の仕事にも活用できる部分がありそうだ。現場を信頼し仕事を任せる。そして関連部署や得意先とのやり取りの中でそのプライドを保ってやる。それがモチベーション維持につながり次の仕事の活動力になっていくのだ。
上層部への承認のフローも注意が必要だ。あまりに口を挟むと現場の活力や創造性が失われることがあるからだ。現場での裁量・権限を持たせる。「ティール組織」でも書かれていた内容だ。

●2つの空白期間
本著でローレンスは2回の事故にあっている。1つ目は転職後2~3ヵ月のローラースケートの事故。PIXARの前途多難な状況の中、社内を調査しても有効な手がかりが見つからなく毎日途方にくれていたが、この事故の空白期間中でローレンスの気持ちが落ち着いた。状況は変わっていないのにPIXARへの出社を心待ちにするようになったのだ。
2つ目はPIXARから離れ、リンポチェ宅での勉強会から戻る時だ。首から背中が固まり奥さんと療養旅行にでかけたのだ。そこでも気づきがあった。自らの仕事を振り返り、PIXARに中道をもたらしたと気づいたのだ。

自ら事故にあえというわけではないが、忙しい日々を送っているなかでは気づけないことが、こうした長期の休養期間には閃きをもって気づける時があるのかもしれない。

コロナ禍で在宅勤務となり、通勤時間を節約できる今この時に、自らの棚卸、今後の展望を考えるのも大切だと感じた。

今月も良書をありがとうございました。
 
投稿者 AKIRASATOU 日時 
PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

本書は「今まで語られなかったお金の話」という副題がついているが、このお金とは誇りに置き換えることが出来るのではないかと思った。
人間は感情で動く生き物であるが故に、誇りを傷つけられると負の感情が起こるという問題がある。ピクサーではオーナーであるジョブズが数年にわたって多額の自己資金を投じる事で何とか成り立っている状況であった。スタートアップ企業ではストックオプションという成功の分け前があるからこそ、成功に向かって一丸となって頑張るという仕組みで成り立っているが、ピクサーではストックオプションが実現していなかった。社員は高いスキルを有し、他の企業では出来ないようなクオリティの仕事をしていたのだから、自分達の仕事に誇りを持っていただろうし、それに見合う対価として給料およびストックオプションが支給されて当然と思っていただろう。とはいえ、オーナーであるジョブズからしてみれば、赤字続きの会社が成り立つように毎月支援しているもかかわらず、ストックオプションを支給しろなんて寝言は寝てから言え!と言う感じだったのではないだろうか。ここは想像でしかないが、幹部であるエドを始め極一部の社員にしかスティーブが赤字を補填している事は知らされていなかったのではないだろうか。そのため、何も知らない社員は「ジョブズの野郎、いつになったら俺たちにストックオプションを出すつもりだ。馬鹿にするものいいかげんにしろ!」と、言う状態だったのではないかと思う。
外野である私からしたら、ジョブズがレビーにストックオプションの話を振られた時に期限が悪くなる気持ちもわかるし、社員達が約束したストックオプションが実現せずにイライラを募らせジョブズはオーナーだが仲間ではないと言う気持ちもわかる気がする。お金が全てではないが、誇りをもって仕事をしているのに正当な対価が支払われないという事は誇りが傷つけられることであり、これが原因でジョブズとピクサー社員の関係は感情的な面から拗れていたというのは非常に頷ける理由だった。

その後、レビーが努力し社員が納得するレベルではないもののストックオプションが実現したことは、ジョブズと社員の関係改善に大きく貢献したと思う。
金銭面でのわだかまりが消えたことが、第18章で映画製作における予算とクリエイティブをどのように成り立たせるかを考える場面での決断に繋がっていると思う。
かつては赤字続きだったピクサーにお金を出すのを渋っていたジョブズが【考えるべきはクリエイティブなビジョンであって、締め切りや予算じゃないだろう】【ジョンとそのチームを信頼したい、彼らに賭けるんだ】と発言し、社員を信頼し権限を委譲したこのシーンはストックオプション・IPOという金銭面の問題解決により、ジョブズが社員の仕事を認められるようになったのではないかと思う。また、それにより社員はジョブズに対して仕事を認めてくれる仲間として認識し、関係が良好になっていったのではないかと感じた。

20章のディスニーとの契約見直し交渉の場面では、IPOの際はもっともっと高く売れると鼻息の荒かったジョブズが意外な発言をする。
契約の見直しにより今までの4倍にもなる利益を得られる事に喜ぶのかと思いきや【ここで折れたら自信や誇りをなくすと思うんだよね。でも交渉をければ自尊心は守れるし、後々、もっといい条件で契約できるようになるはずだと思うんだ】と。後半の「もっといい条件で・・・」というところがメインだったのかもしれないが、私にはそうは思えなかった。この頃にはジョブズはピクサーというブランドを自分の会社としてとても愛していて、大切に思っていた。だからこそ、お金ではなく社員の誇りの方が大事だと考え、上記のような発言になったのだと思う。合理的に考えると次も大ヒット作品を作れる保証はないのだからお金が得られる方向に舵を切ってもおかしくないのに、それよりも自信や誇り、自尊心を選んだ。この選択があったから第23章の試写室にて最新版の映像を見た後にジョブズに感想を尋ねるシーンで次の会話が生まれたのだろう。
【「決めるのは君らだ。信頼してるからね」「でも、我々としては、あなたがどう思われたのか、気になるのです」】と。
あんなにいがみ合っていたはずのジョブズと社員が互いに敬意を払いあい、信頼を寄せるなど最初は考えられず、このシーンが本書の中で一番感動的だった。

以上のように、私は本書から仕事における対価と誇りはどちらも重要なものであると改めて感じた。今後の業務においては管理職として部下の仕事を認める言動を増やし、今まで以上に誇り持って仕事ができるような環境を作ろうと思います。
 
投稿者 ZVL03103T 日時 
この本を読み終わったとき、まず感じたのは、著者のような勇気が欲しい、ということだった。
ピクサーがディズニーに買収されるまでの章は、どのようにスティーブ・ジョブズは復活したのだろう?ビジネスで成功する秘訣なんだろう?優秀な人たちは、困難にぶつかったときにどのように克服していくのだろう?と言う観点で読み進めていた。実際読んでいると、著者はとても優秀な人だと感じた。優秀なキャリアを積み重ねてきたからこそスティーブ・ジョブズから声がかかり、そして一緒に仕事をすることになった。その後も、様々な困難にぶつかったが、それでもあきらめず、工夫し、今までのキャリアを生かし今乗り越えていった。素晴らしいと感じた。自分とは違う、優秀な人。素晴らしいキャリアを持つ人。そのような人たちの経験や考え方から、凡庸な自分が参考にできる事はなんだろう?周りが反対しても自分の気持ちに正直に行動すること。どんなに不利な契約でも諦めず粘り強く対策を考えること。どんな優秀な人にも怪我など不幸なアクシデントは平等に起こる可能性があると理解すること。そんな風な事を考えながら読んでいたのだが、「新世界へ」の章を読みだしてから、一気に引き込まれていった。
ピクサーで成功をおさめた著者は、きっと今もビジネスの世界でさらなる活躍をしているのだろうと勝手に想像していた。しかし、哲学者になったと書いてある。しかも、その後らつまづいてばかりだったとある。私はそれを読んでハッとした。私は著者は優秀だから成功した、私とは元々出来が違う人間の話として読んでいた。しかし、新しい分野に飛び込むという、自分にも起こりうる同じ立場に立った時、自分と違うのは優秀さではなかった。自分の心を真っ直ぐ見つめる目と決断力が違うのだと思った。私も著者のように自分の中道を目指して勇気ある決断をしたいと感じた。私に足りないのは、優秀さの前に勇気だと感じた。
 
投稿者 kensho0408 日時 
一時は潰れかけたPIXARという会社が、なぜアニメーションの世界でこれほどの成功を収めることができたのか。実はエンターテイメント業界というのは、リスクを取れないという経営的な要因でクリエイティブ面に保守的な業界なのだ。そこにコンピュータアニメーションというテクノロジーを持って風穴を開けたのがPIXARである。その背後にはスティーブ・ジョブスと、裏方で支えた筆者のストーリーがある。
筆者が入社した時、スティーブは知られているように、非常に「個性的」な人物であり、オーナーとして社員の信望もなかった。当然ながら筆者はスティーブと従業員の間に挟まって苦労することになる。
だが、PIXARのもつクリエイティビティーとテクノロジーの価値はIPOを大成功に導いた。その勢いをにより、懸案となっていたDisneyとの「不平等契約」を是正するため、PIXARのブランドを確立するために奔走するうちにスティーブは社員からの信頼を得た。筆者は評している。このPIXARでの経験(社員からの信頼、今まで経験したことのないレベルで人に任せることを覚えたこと、エンターテイメント業界を深く理解したこと)が、その後のスティーブの大きな転機になったのではないかと。スティーブ復帰後のアップル大躍進の一因になったというのである。確かにそういう見方もできるのだろう。
一方で、スティーブの投資家としての一面も印象的だ。あれほどこだわって苦労して手に入れたPIXARのブランドも、株価が天井だと判断するとPIXARの経営リスクヘッジのためだとしてDisneyに売却してしまうのである。しかも、その後買収したDisneyの株価は4倍に、Disneyの筆頭株主となったスティーブの持ち株は40億ドルから130億ドルへと、一般株主も含めてステークホルダー全てがwinwinとなる最高の結果である。見事な出口戦略と言うほかはない。
これらを全て裏方として支えた筆者は、心境の変化を迎える。東洋哲学への傾倒である。以前からスティーブの影響があったのかも知れないが、そのスティーブの死や筆者の事故による大けがも影響しているのだろう。
そこでつかんだ「中道」の考え方は、クリエイティブでありながら組織だった管理、効率と芸術を追い求めるPIXARのビジネスと、ビジネスマンとしての筆者の到達点なのだ。
 
投稿者 2727 日時 
「PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」を読んで 

この書籍は、1994年に著者がスティーブ・ジョブズからPIXARへヘッドハンティングの誘いを受けてから2006年ディズニーへ買収までのPIXARでの12年とその後の著者が語られている。PIXARにおいて著者の課された任務は、法律と財務のプロとしてIPO(株式公開、上場)を実現することだったが、そのために必要なアニメーションの基礎知識、契約条件、財務状況、社内の状況、そのゴールを実現するために不可欠なものを丁寧に集めて分析している。それらを熟考し、最高のタイミングを模索する。スタートアップ集団を引率するのにどれほどの有能さが必要なのか計り知れないが、今となれば誰もが知るアニメーション企業となるまでの道のりは有能な人たちですら間違いなくすさまじい難しさだということは十分伝わってきた。私がこの本で特に心に響いたのは、信頼関係の重要性、適切なコミュニケーション、理念、である。

まず1つめの信頼関係の大切さについて。著者は様々な不安を抱きながら徐々にPIXARで働くことを決めるまで心が動いていく。初期の段階でスティーブ・ジョブズに対して「まるで、僕と一緒に学び、ふたりで前に進んでいるようにかんじるよ(P72)」と妻に話している。ボスに命令される一方的な関係ではなく、無知のジャンルを一緒に学ぼうとする姿勢を感じた著者。この関係性が山積した問題をクリアできた大きなポイントの1つではないかと考える。

著者が語るPIXARの物語は、全編著者の心情がとても丁寧に語られている。スティーブ・ジョブズに対しても、率直な想いが多数語られていてとても親近感を持てたし、著者の語るスティーブ・ジョブズは著者と意見交換を頻繁にして、人の意見を聞く人だったという一面を知ることができた。これは著者の人柄によるところも大きいだろうと思うし、癌の闘病中も自室に招かれるほど親しい間柄だったことがわかることから、ビジネスパートナーの中でも特別な存在であったのではないか。素晴らしいキャリアを持ち、スティーブ・ジョブズに指名されるだけの功績と実力を持つ著者は、とても勉強熱心であり、非常に冷静で慎重、誰に対しても敬意を払った態度で接していることが著書から読み取れる。そして彼の最大の魅力は、堅実な思考を土台にリスクを承知で挑戦する姿勢である。人として見習いたいと思う視点が随所にあった。こうした彼の魅力が周囲との厚い信頼関係をもたらしたのだろう。

2つめは著者の適切なコミュニケーションについて。特に感銘を受けたのは、その話をいつすべきか、というタイミングである。重要な相談をする時、その話をするタイミングを熟考していると感じる表現が所々に出てくるのだが、このタイミングが違っていたら、結果も違っていたかもしれない。時にはディズニーの買収の検討や時期など幾度となく話すこともあるようだったが、著者の法律、財務の専門家としての経験や知識などを総動員して、その案件に関してのベストタイミングを常に考えて周囲と仕事をしていることがうかがえた。他にも臨機応変に相手の気持ちを推測してどう対応するかという著者の心の動きをコミュニケーションに反映させているところもあり、コミュニケーションが苦手な私は、非常に高度な思考だと感じた。今後努力を重ねて少しでも見習っていきたい。

3つめは理念について。PIXARの成功は、PIXAR流という(企業理念、社風ともいえるようなもの)とPIXARというブランドを妥協せずに守ったこと。「自分たちのしていることに誇りが持てなくなったらおしまいだ」というPIXARの存在意義の共有がなされていたこと。これは普段から社内全体に行き渡っていないと究極の判断が狂う一因になりかねない。PIXAR流を貫こうという覚悟がPIXAR経営陣にはあり、著者も日ごろからその精神を周囲にも話していたし、形になるよう行動に移していた。今ではPIXAR映画の伝統となっているという映画の最後のクレジットにアニメーション製作に関わらない社員の名前も入れるということも、彼の交渉なしでは叶わなかっただろう。著者自身もPIXARで仕事をすることの誇りを大切にしてきたのだと感じたし、(著者だけがクレジットに名前を記載されないという残念な結果になってしまったが)途中経過でディズニーの買収を見送った大きな決断も、PIXAR流が浸透した結果だった。理念を曲げずに成功を引き寄せることができたのはディズニーも認めるだけのPIXARにブランド価値があったからである。

プロとしてどのように働いていこうかと原点に立ち戻っていた自分にとって、とても学びの詰まった書籍だった。特に心に惹かれた3点は今後実践していきたい。
 
投稿者 Terucchi 日時 
この本を読んで、

ピクサーが成功したクリエイティブと事業性の融合の面と、著者の「中道」の意味するところ

の視点で私なりに以下の3点で書いてみたい。

①この本から学んだこと
②他の視点から考えてみたこと
③自分なりに考えたこと

①この本から学んだこと

著者は、p295で仏教思想の『中道』の大切さを取り上げている。更にそのイメージを『自分のなかに人がふたりいて、ひとりは官僚、もうひとりは自由な精神のアーティスト。どちらを選んでもうまくいかないのが中道の考え方。どちらにもかたよらず、両者の折り合いをうまくつける中道が一番』としている。どちらか、白黒ハッキリさせるでなく、そのバランスが大切だと私は解釈する。ピクサーが成功したのも、もともとあったクリエイティブさに対して、事業面の折り合いを付けたことが成功につながった。当初、ピクサーは当初クリエイティブさはあったが、赤字で経営が成り立っておらずの状態であった。そこに、著者が来て、事業面の役割を合わせることにより、成功に導けることができた。この時、クリエイティブも事業性もどちらも必要であった。

そして、この成功を勝ち取るに当たり、びっくりしたのは、ディズニーとの合併に対して、最後まで、ピクサーを世界的ブランドにするというプライドを持ち続けたのはすごい。明らかに、大きなディズニーに対して、実績のほとんどないピクサーが対等の位置を求めるのは、普通であれば考えられないことだ。もし最初から気後れしていたら、吸収合併となってしまっていたと想像する。しかし、もし吸収合併であれば、何よりもクリエイティブさが消えてしまっていたのかも、と思ってしまう。

②他の視点から考えてみたこと

意外だったのが、

p112『ハリウッドといえば創造性というくらいなのに、現実はまったく違う。リスクを取るより、二匹目のドジョウで安全確実な道を選ぶのだ。』『つまり、エンターテイメント会社としてピクサーが身を立てるには、イノベーションを抑えるハリウッド流に染まらないようにしなければならないということだ』

である。ハリウッドであれば、常に新しいものを求めていると思っていたが、意外に守りに入ってしまっていることだった。ハリウッドでも、成功してしまうと、それを守ろうとして、失敗する確率が高いことには手を出さないようになってしまうということなのだ。本書の中でも、その原因は背負うものが大きくなると、失敗することができなくなり、結果、安全思考になる、と取り上げていた。そうやって、結局イノベーションやチャレンジができなくなってしまうことであるとのことである。

ここで、私は会社の教育で、MBA教育の概要を受講した中で、企業や事業のライフサイクルについて学んだことがある。内容は、企業や事業は、導入期、成長期、熟成期、衰退期とサイクルが変化するという話である。導入期は、チャレンジが必要で、その後、成長期に入って企業や事業は大きくなる。そうなると、次のフェーズでの熟成期となるが、会社としては管理的な状態に入ってしまう。必ずしも悪いことでなく、熟成期は企業としてはもっとも充実している。ただし、頭打ちとなり、時が経つと、衰退期になる。この熟成期の時に如何に次の手を打つことができるかである。例えば、儲けている資産を新規事業に賭けたりすることがその次の手を意味する。その新規事業が成功にならないと、企業は衰退していくのを止められない。もし過去の栄光に捕らわれていると、新しいことに目を向けるのは難しい。衰退していく事業を何とか、もう一度成長させるのではなく、クリエイティブさとチャレンジで、他の新しい柱が必要となる。これが企業のライフサイクルである。熟成から衰退のものも有れば、新しく起きて成長するものが、混在している状態である。今回の合併に時期は、ディズニーにとっては熟成期であって、いずれ衰退期に突入することを感じていたため、ピクサーと組んだと思われるが、その合併は結果として良かったことであろう。

③自分なりに考えたこと

著者にとって、成功した過去を捨ててまで新しい人生にチャレンジしている。私にとって、人生の解とは何だろうと思うことがある。私自身、平均年齢の半分を当に超えてしまい、残りの人生をヒシヒシと感じている。そんな中で、何らかの解を焦って求めている自分がいる。この本を読んで、本来であれば、何らかの結論を出さなければならないのかも知れないが、考えても結論がでず、今回はタイムリミットである。今の自分では結論が出せないのが歯痒い。今の自分が思うのは、「中道」とは、自分の中の二人の、一人は官僚、もう一人は自由な精神のアーティストどちらも追い求めることだと思う。これが今の自分の結論であり、今後の人生で考えていくことではないかと思う次第である。
 
投稿者 msykmt 日時 
著者にとって、著者の妻であるヒラリーの存在がとても大きく感じられた。たとえば、著者がスティーヴ・ジョブズをはじめとする様々な人と意見が衝突したとき、著者は彼女に相談すると、彼女は著者に適切なアドバイスをするなり、フォローをするなり、ときにはなぐさめたりするなりしている。それらがきっかけで、事態が好転していく様子に清々しさを感じる。

著者がピクサーへ転職するか否かを考えていたとき、小さな子供たちを育てながら、家から遠く離れたピクサーまで通勤するのに懸念を示していた。なぜなら、著者は家族との時間を大切にしているからだ。すると、彼女は場所はいったん気にしなくてよいのではないか、もう少し色々調べてから決めてはどうか、と著者へアドバイスをする。その言葉を受けて、著者はピクサーに訪問するのを決意する。その様子は、あたかも、著者の心の声、内なる声を彼女がくみ取った上で、著者の背中を押したのではないかと感じた。

さらに、転職するか否かを決断するにあたり、著者は彼女をともない、スティーヴ・ジョブズとジョブズの妻と会ったり、メンターに相談したりしている。しかし、最終的にはヒラリーとの会話で転職するのを決断している。転職するか否かを妻に相談するのは、当たり前のことかもしれないものの、著者は意識的にそう行動しているのを『最後はヒラリーと相談だ』の文で力強く明示している。

著者がピクサーに転職してからも、ピクサーには、才能もあり、努力もしている人材が豊富なのに将来の展望が得られないことや、ピクサーが過去にディズニーと不利な条件で契約してしまったことに対する憤りを、著者は彼女にあけすけに話している。そのたびに、現状を悲観するのではなく、これからどうするか、将来への行動を動機づけるコメントを彼女は著者に対して発している。

著者が骨折をしたとき、救急車で運ばれた先の病院では、ギブスだけでよいとの診断に懐疑を示し、セカンドオピニオンを求めたのはヒラリーである。結果的に、著者は足に後遺症が残るのを回避できた。

著者がピクサーを辞めた上で、スピリチュアルな活動をはじめたとき、さも当たり前のようにヒラリーも一緒に活動している。その活動を現代的に改革するときも、彼女は当たり前のように著者とともに改革に参加している。

そこからどう思うか。私はシステムエンジニアを生業にする一方で、私の妻は看護師を生業にしている。私が転職を決意した際は、そう決意するに至った経緯なり、理由を事細かに説明した上で、妻からの了承をとりつけた。しかし、日々の仕事における懸念や、利害関係者との衝突について話すときは、専門分野が大きく違うこともあり、なるべく前提知識を省略しながら妻に話していた。今後は、なるべく前提知識を省略せずに、事細かに説明した上で、仕事の懸念なりを妻へより太く伝えらえれるよう、妻からより良きフィードバックを得られるよう話そうと思った。妻との長期的な良き関係を構築するために。