投稿者 synchroserendipity 日時 2020年7月13日
資本主義という「ゲーム」に焦点を当てて、その攻略(ハック)の仕方を解説したものが本書の内容だが、その根底に流れる重要なテーマは以下の3点であると考える。
①個人資本主義
②アービトラージ
③因数分解
このように考える根拠とそれぞれについての意見は以下の通りである。
①個人資本主義
端的に言えば個人資本主義における勝利を収める具体的な方法を述べたものが本書のメインコンテンツであるため。
本書の冒頭で、「現実世界もひとつのゲームであり、そのゲームの名は資本主義経済である」と書かれている通り、資本主義とは本来は国家、あるいは社会という範囲で用いる言葉だが、それが今日では個人レベルでも適用される世の中になった。
この意味には2つの側面があり、『個人でも一企業を凌ぐ売上を上げることも可能となった』という点と、『個人が自分の人生を経営する』という点があると思われる。(これも本書に書かれている通り)
前者は、社会経済の中でこれまで「売上」というものは、個人事業主を除いて基本的には企業が追うべきものだったものが、個人においても企業と比べて遜色のない売上を上げるケースが出てきたということであり、後者は、これまで個人は企業に勤める労働者として搾取される側の存在だったものが、これからはさまざまなシステムやサービスを利用し、あたかも企業のように資本を投下することで、さらに資本を増やすということが可能になってきたということである。
さらにこの個人における資本を、人的資本、金融資本、固定資本、事業資本という4つに分けて考えるところが興味深いと感じた。
ただこれも企業における経営状況を損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)で管理するように、個人についても同様にP/L、B/Sという観点で管理することを考えれば、自ずと資産の内訳というところから導き出された帰結なのではないかとも感じる。
②アービトラージ
本書で述べられている「資本主義をハックするための具体的な方法」は、ほぼもれなく「アービトラージ」という考え方に基づいているため。
これは本書でも『ゲームをクリアするためのヒント』と書かれている通りである。
アービトラージは元は金融業界の言葉でさや取りのことを指す言葉だが、金融業界における価格差と同様に、資本主義全体での人の認識の差分をチャンスと捉えるという視点で用いている。(広義のアービトラージと言っても良いかも知れない。)
つまり、資本主義ハックの具体的な方法の裏側にある根拠自体が、一つひとつのアービトラージであるということになる。
またアービトラージとは認識の差分から生まれるが、同時に二元論的考え方への警鐘であるとも感じられた。
それは本書でも「二元論の行き来をすることがリスクコントロールの肝」「隠れた意外な因子は二元論の逆側から見つかることも多い」などと書かれている通りである。
③因数分解
アービトラージを狙うために必要な思考法であるため。
『アービトラージを行うためには、まず「周囲が気づいていないこと」に気づく必要がある』と書かれている。そのための唯一の方法として『他人よりも物事を深堀りして考え続ける』とあり、この深堀りする思考法として紹介されているのが「因数分解」だからである。
この因数分解という考え方は、『量×質、そしてプロセス、もしくは5W1Hなどをヒントに因子に切ってみる』と書かれていることから、いわゆるロジックツリーと同じ考えである。
ロジックツリーは問題の原因特定や課題分析などに用いるフレームワークであるため様々なケースに応用できるが、それを本書では「資本主義をハックする」ために用いたという形式になっていると考えることができる。
現に、著者の第一冊目の著書である『鬼速PDCA』でも因数分解によって計画フェーズの仮設の精度を高めるために因数分解能力が必要であると書かれているし、また証券会社時代で営業成績トップになれたのも因数分解して立てた仮設に基づいて行動したからだと書かれている。
そしてこの①②③は以下のような関係性になっている。
・今日到来した個人資本主義(①)時代をハックすることができれば、自分の願望や夢を達成することができる。
・資本主義をハックする方法は、アービトラージ(②)を取ること。
・アービトラージを狙うためには、因数分解(③)をして思考を深堀りすることが非常に有用である。
もう少し簡潔にまとめるとこうなる。
「因数分解(③)によって思考を深堀りすることでアービトラージ(②)を狙うことができ、引いては個人資本主義(①)時代において資本主義をハックし自分の夢を実現することができる。」
そしてこの3点が重要なテーマであると考えるもう一つの理由は、①②③を押さえることさえできれば、今後多少ルールの変更や法改正があったとしても、自分なりの方法を見つけることができるからである。
本書で解説されている具体的な方法は、あくまでも現時点でのシステムやサービスに基づいているもので、世の中の変化によっていくらでも変わり得る。
メインコンテンツがその「具体的な方法」ではあるものの、著者が伝えたい本質的なメッセージはあくまでも①②③であると考える。
さらには、著者の思考・行動様式の根幹には常に因数分解があり、そこで見つけた事実、あるいは立てた仮設に基づいて行動していると推測できる。
それを企業経営や組織改革、業務効率向上などに適用したものが『鬼速PDCA』であり、個人資本主義で勝利して夢を叶える方法を説いたものが『資本主義ハック』なのではないだろうか。
他にも未読ではあるが、『営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて』については文字通り営業手法について適用したもの、『稼ぐ人が実践しているお金のPDCA』「お金」「稼ぐ」に特化した内容にしたものではないかと思う。
つまり、因数分解することでアービトラージを取ることが習慣化でき、その能力が高まれば、どの分野にも適用可能であるということが、著者が伝えたいことなのではないかと考える次第である。