投稿者 mkse22 日時 2021年4月30日
「LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界」を読んで
「老化は病気である」
本書に記載されているこの主張は、私にとって衝撃的だった。
なぜなら、私は老化を避けることが出来ない自然現象として
当然のように受け入れていたからだ。
これは私だけでなく、世間も同様だと思われる。
例えば、ドラマや映画などで老いをテーマとして、老いを受け入れる過程を描いたものがある。
老化は避けることはできないからこそ、どのように受け入れるべきかという問題意識が世間にあるから、
このようなものが作成されるのだろう。
これに対し、本書では老化を病気とみなすことで、治療ができる可能性を示唆している。
老化を自然現象と見做すなら、それには逆らうことができないため、従うしかないが、
病気と見做せば、治癒の可能性があるわけだ。言い換えると、若返る可能性があるわけだ。
もし、老化を治癒し、20~30代の能力を50代でも維持できるようになったら、
日本社会に大きな影響を与えるだろう。
現在の日本でサラリーマンとして成功するためには、特に10~30代の過ごし方が重要だ。
希望の会社に入社するためには良い大学を卒業する必要があるし、
就職後も出世コースに乗る必要があるからだ。
少なくとも20代では出世コースに乗っていなければ、30代以降で出世することは困難だろう。
この考えの背景には、人間の能力は10~20代が成長期で、30代が成熟期、40代からが衰退期といった
経験則が共有されていることにあると思える。
つまり、個人の能力は年齢に依存しているということだ。
企業側もこの経験則を前提に人事制度を構築していると解釈でき、
10~30代のパフォーマンスがその後の人生を決定づけるような制度となっている。
ここで、老化が治癒可能なら、この経験則に大きな変更を迫ることになる。
40代以降でも高いパフォーマンスを出す可能性があることを意味するからだ。
こうなると、20代で高いパフォーマンスを発揮して管理職についた人間も安心できない。
いつどこから自分を脅かす社員がでてくるかわからないからだ。
例えば、20代ではうだつの上がらなったが、40代で突然高いパフォーマンスを出した社員がいたとする。
会社としてはその社員に相応の見返りをする必要がある。そうしないとより良い待遇を求めて他社に転職されてしまうからだ。
(現在は、どの企業も労働力不足に悩まされるため、能力の高い40代の転職は以前より
容易になりつつある)
そのときに、パフォーマンスを出せていない管理職がいたら、その管理職を降格させて、
そのポジションを当該社員に与えるいう話がでてきてもおかしくはないだろう。
このように、老化を治癒できると、社員間・会社間で競争が加速することになり、
その結果として、現在の能力に見合った給料やポジションを得ることになるだろう。
なお、サラリーマン以外(例えば、スポーツ選手や芸術家、研究者など)についても、
本人の全盛期の期間が伸びるため、こちらも同業者との競争が加速するだろう。
整理すると、能力が年齢に依存しなくなるため、どの職種でも年齢を理由にした離脱者がいなくなる一方で、毎年、新入社員をはじめとする新規参画者がいるため、年々ライバルは増えていく。
したがって、いたるところで競争が加速するだろう。
ここで、次の問題が生まれる。辞める決断をするタイミングだ。
これまでだったら、成功していない状況で、年齢による能力劣化を自覚すると、自分の限界が見えてくるため、年齢を理由に辞める決断ができた。
しかし、この劣化がなくなると、いつまでも「自分はまだやれる」という感覚に陥り
チャレンジをし続ける可能性がある。
成功するために必要なものは、能力だけではない。例えば、才能や運も必要だ。
いくら本人の能力の全盛期が長くなっても、そもそも、その分野の才能や運がなければ、成功しないからだ。
辞める決断が難しいことの良い例が、漫才師だ。
M1は2011年に引退した島田紳助氏がつくった番組だが、
この番組の目的の一つに「漫才師に辞めるきっかけを与えること」がある。
売れない漫才師に対して才能がないことを自覚させ、自ら辞めるように促すという意味だ。
その判断基準はコンビ結成10年で、これが参加資格となっている(現在は15年に変更)。
これは、売れないまま漫才師をいつまでも続けている人たちがいる証拠である。
老化が治療されると、いろいろな職種で売れない漫才師のような才能はないがやめられない人が増えるかもしれない。だから、辞める決断をする基準を準備したほうがよいかもしれないと思った。
今月も興味深い本を紹介していただき、ありがとうございました。