投稿者 mkse22 日時 2020年11月30日
間宮林蔵 を読んで
本書を読んで、間宮林蔵はまず直感力が高い人物であるとおもった。
「魚を食べているアイヌは水腫病になっていないから、
かれらをを見習って魚をたべるように」という老人からの助言に
素直に従い、嫌いな魚でも食べようとする姿勢は
なかなか真似することはできないだろう。(少なくとも私には難しい)
なぜなら、魚を食することが水腫病にかからないために有効であることは
当時医学的に証明されておらず、したがって、その根拠がアイヌが水腫病になっていないという
経験則だけだからである。経験則だけではなかなか人は動かない。
同じく蝦夷地にいた足軽が水腫病にかかって亡くなっていたことがよい例だろう。
後年、その能力はさらに冴えていった様子で、シーボルトからの贈り物が届いたときには、
瞬時にこれを受けとると問題になる可能性を見抜いた。
さらに、彼の分析能力の高さも垣間見える。
他人から自分がどのように見られているのかを自己分析したうえで
自分の不利益にならないように行動しているようだ。
普段は船を課さないコーニーが林蔵には貸してくれたことや
女尊男卑の激しいノテトで、まず女性から好意を持たれるようになり、
さらには、林蔵に嫉妬していた男性とも親しくなることができた。
林蔵は、直感力と分析力の高さで、人生の3大危機であるロシア艦来襲事や
清国領の東韃靼への立ち入り、シーボルトからの贈り物の受け取りで、
いずれも処罰を逃れることができた。
彼は、分析力を基礎にした慎重さと直感力を基礎にした大胆さを兼ね備えた人物ともいえるだろう。
これらは、現代のできるビジネスパーソンに求めれれている資質のように感じた。
この2つがあれば、ビジネスの世界でも成功しやすくなると思われるからだ。
しかし、その能力の高さが逆に仇となったようだ。
3大危機のひとつのシーボルトから受け取った小包を幕府に届けたことがきっかけで、
彼は密告者としてのレッテルを貼られてしまう。
林蔵は小包を幕府に届けたことをきっかけに作左衛門を陥れたと周囲から思われたからだ。
密告者としてのレッテルを貼られた林蔵は、周囲から白い目でみられつつ
幕府の隠密として生きていくことになる。
ここに、私は人生の難しさを感じた。
地位や評価が高くなるほど、他人からの注目をあつめてしまうせいだろうか、
その人の行動が思わぬ誤解を生んでしまうように思える。以前と同じ行動をしていてもある。
他人からの注目には羨望のまなざしもあれば、嫉妬もあるため、
どうしても隙あらば成功者の足を引っ張ろうとするものが現れてしまう。
だから、地位や評価があがればあがるほど、その人はより自らを律する必要がある。
そうしなければ、あっという間にせっかく築いた地位や評価を失ってしまうからである。
シーボルトの小包を受け取る前の林蔵は人生の荒波をうまく泳ぎ切っていたように見える。
自分の仕事が幕府から評価されて「一生無役」という恩恵まで受けた。
第一回樺太調査を行って地図を作成したときからだろうか、
林蔵は作左衛門に手柄をとられたくないという気持ちから生まれ、
最終的には私生活が乱れていることを理由に嫌うまでになっていた。
このことが、林蔵を追い詰めることになる。
林蔵が作左衛門を嫌っていることが左衛門を陥れた根拠となってしまい、
密告者としてのレッテルを貼られてしまった。
地位や評価を得る前の林蔵なら、注目されていないがゆえに
このようなことにはならなかっただろう。
作左衛門を嫌っていることを周囲の人間に知られてしまったことが
林蔵のミスともいえる。
さらに、成功するためには、代価が必要であるとも感じた。
林蔵は名誉を得た。しかし、その代償として故郷をなくしてしまった。
彼自身も故郷がなくなったのは故郷を捨てたからだ、両親を放置して生きてきたから
神仏の罰が当たったのだと思っている。
林蔵の人生はまちがいなく途中までは成功者の人生だった。
ただ、嫌いなひとがいることが彼自身の人生を捻じ曲げてしまった。
この点が私の心に残ったことである。
今月も興味深い本を紹介していただき、ありがとうございました。