投稿者 mkse22 日時 2022年3月31日
絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たちを読んで
本書はインドの絶対的貧困層について、著者の体験をもとに纏められたルポルタージュである。
物乞いや売春が行われている地域に何度も通いそこで筆者が体験したことや女性の生の声が赤裸々に描かれている。
インドの絶対的貧困層の女性にとって、生きていくためには物乞いや売春とした職業の選択肢がなく、
一旦入るとそこから抜けだすことは困難であり、さらには、職場環境の劣悪さを加えると
地獄と呼ぶにふさわしい状況である。
この背景には、カースト制度がある。カースト制度とはヒンドゥー教の身分制度であり、
現在ではかなり緩和されてきたとはいえ、これが長年にわたり継続されてきた。
この制度のもとで、低カーストやカーストにすら入れない身分で生まれてしまった人は
努力で這いあがるチャンスが全くない。
さらに、資本主義が絶対的貧困から抜け出すことをより困難にさせている。
資本主義のもとでは一旦格差ができると、数年で大きな差となってしまう。
絶対貧困層からみると、スタート地点でも一般層や富裕層と格差があるのに、年数が経つごとに、
その差は広がる一方となってしまうからだ。
本書の最後で著者はインドの絶対貧困層を通して日本を見ていた。
日本も格差が広がりつつある現在、インド貧困層は日本の将来の姿ではないかと。
日本でもインドの絶対貧困のような層が生まれる可能性はあるのだろうか。
もちろんその可能性はある。ただ、日本で絶対貧困を生み出す原因は、
身分制度ではなく、雇用制度だと考える。
日本の雇用制度の問題点は以下の2つ。
①雇用形態(正規社員と非正規社員)による待遇の格差が大きい
②新卒採用重視のため、再チャレンジしにくい
この2つの問題点が日本で絶対貧困を生み出している可能性があると考える。
①については、yahoo!Japanニュースに掲載されていた
「正規社員と非正規社員の賃金格差を年齢階層別にさぐる(2021年公開版)」
という記事によると、正規社員の方が賃金は高く、非正規社員の賃金は正規社員に比して7割前後とのことだった。
さらに別のサイトでは出世や昇給についても両者には差があることが指摘されていた。
②については、就職氷河期世代が良い例だ。
この世代はバブル崩壊後から景気の悪くなった時期に新卒での就職活動をしなければいけなかった。
当時は、新卒採用が主流のため、新卒採用にて正規社員の内定を手に入れることができなければ、
そのまま卒業すると非正規もしくは無職という選択肢しかなかった。
したがって、再度、新卒採用枠で就職活動をするために、意図的に留年した学生がいたほどだ。
さらには転職も一般的でなかったため、不本意ながらも新卒採用枠で内定をもらった会社で
正規社員として働かざるをえなかった。
実は、現在においては、問題点①②ともに徐々に解消される方向にあると考えている。
問題点①については司法から違法性が指摘されている。
2020年には日本郵便の格差是正に関する訴訟で、扶養手当や有給の夏休み・冬休みを
契約社員にも認めるような最高裁判決がでた。この正規・非正規の格差是正の流れは今後も進むだろう。
問題点②についても、2000年代以降、第2新卒をはじめとした転職市場が活性化しはじめた。
最近では、かつて困難といわれていた40代の転職市場もあるようで、人材の流動化が進みはじめており、
再チャレンジの環境は整いつつあるようだ。
しかし、この問題解消による恩恵を受けることができるのは、主に2000年代以降に就職活動をした学生や
現在、正規社員として働いているサラリーマンである。
就職氷河期世代で非正規社員や無職になった人達は、これらの恩恵を受けにくい。
なぜなら、彼らは既に40~50代になっているが、これまでのキャリアの積み重ねがないため、
現在、転職市場が存在していても企業からの需要がないからだ。
そのため、いまだに非正規社無職から抜け出すことができず、生活に困窮している人が多いようで、
国が彼らの支援をしているほどだ。
その例として「就職氷河期世代支援に関する行動計画2020」があげられる。
ここで、先ほどの疑問を改めて考えよう。
日本でもインドの絶対貧困のような層が生まれる可能性はあるのだろうか。
その解答としては、可能性はあるどころか、実はすでに日本でも絶対貧困の層は生まれていた。
就職氷河期世代で非正規社員や無職の人たちがそれに該当する。
彼らは生まれた時代が悪かったというだけで、求人が少ない時期に新卒での就職活動を行うはめになり、
さらには転職という再チャレンジのチャンスもなかったため、その結果として、非正規社員や無職となり、
その状況から抜け出すことが困難な状況に追い込まれている。
ここでのポイントは、絶対貧困層に入るかどうかは、インドではカーストという身分、
日本では生まれた時代に応じて決まるわけだ。
両者の違いがあるとすれば、カースト制度は長い歴史があるため、同制度に起因した差別をなくすことは
相当の時間がかかるのに対して、就職氷河期世代は100年過ぎれば、かれらはいなくなるため、
貧困問題は自然と解消してしまうことだろう。そして、転職が常識となったため、
今後、彼らのような世代は生まれにくい。
就職氷河期世代は、国からも企業からも他の世代からも見捨てられた世代だと思ってしまった。
今月も興味深い本を紹介していただき、ありがとうございました。