投稿者 mkse22 日時 2022年1月31日
「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」を読んで
落合といえば、三冠王を獲得した野球選手で、野球にそれほど詳しくない
私でもその名を知っている選手だ。
落合が監督になるというニュースが流れた時は、「名選手に名監督はいない」といった
言葉があるように、名選手がよい監督になれる可能性は低いと思っていたので、
当時はあまり期待していなかった記憶がある。
そういう気持ちからなのだろうか、落合監督就任後のスポーツニュースをあまり追いかけた記憶がない。
俺流という言葉ぐらいを知っているぐらいかな。
落合が監督だった時期は、私がプライベートなことで手一杯だった時期と重なっているため、
それが理由でスポーツニュースを見る余裕がなかっただけなのかもしれない。
だから、本書を読んで、落合監督時代の中日の通算成績やリーグ優勝や日本一となった年があることを知って驚いたぐらいだ。
本書読了後に、改めて考えてしまった。
なぜ、私は落合監督時代の中日に興味を持てなかったのか。プライベートが忙しかったから?
監督としての能力を期待していなかったから?もちろん、それも理由の1つしてはあるだろう。
しかし、興味をもてなかった理由はそれだけでなかった。
私が興味を持てなかった理由、それは落合監督の発言や決断に冷酷さが目立ち、
それらに華がないと感じていたからだ。
私のような熱心なプロ野球ファンではない人間は、スポーツニュースを常にチェックしているわけではないので、特に話題となったニュースしか見ない。
長嶋監督や星野監督そして野村監督は発言が頻繁にニュースになっていた感じがある。
例えば、野村監督は今週のボヤキといったコーナがテレビ番組であったほどだ。
最近の話題でいえば、ビッグボスこと新庄監督だ。彼の発言は選手時代から惹きつけるものがある。
それに対して、落合監督の発言はニュースにはなりそうだが、それらは賛否両論となりそうなものばかりだ。発言だけ聞くと、にわか野球ファンの私は問題発言の多い監督というイメージをもってしまい、
中日の試合を見ようとはしなかっただろう。
しかし、本書を読んで初めて理解できたのだが、落合監督の発言や決断の背景には、チームの勝利を最優先にする考えがあった。
よい例が2007年の球界大記録達成と目前にしたピッチャー山井の交代劇だ。
この部分は読んでいて鳥肌が立ってしまった。山井本人から交代に関する事前申告があったとはいえ、
落合監督は大記録達成と目前にしたピッチャーに対して交代を指示をした。チームの勝利のより確実にするためだ。もし、交代したうえで試合に負けていたら、落合監督は日本中の野球ファンから大記録を潰したとしてバッシングされただろう。
この落合監督の決断は、私だったらその重さに耐えられずに決断できないと思ってしまった。
同時に、気づいてしまった。私は勝利を最優先にした試合を見たいわけではなかったことに。
山井が交代せずに続投した試合を見たいと思い、そのような試合を「華がある試合」と考えてしまっていた。続投の結果、中日が負けたとしても、それを受け入れてもよいのではという考えさえ頭をよぎっていた。
プロは結果がすべてあり、試合では勝利しなければいけない。
この考えに選手もファンも異論はないはずだ。私もその通りだと思っていた。
しかし、試合に勝つ可能性が下がる選択をすることを許容している私もいた。
私は本当の意味でのプロ同士の試合を見たいと思っていなかったわけだ。
勝利を最優先にしない試合でも別に問題ないのではないか。負けてもそこに華があればそれはそれでよいではないか。このような考えも頭をよぎったが、すぐに捨てた。
なぜなら、この考えが浸透すると、選手とファンとの間にあるべき緊張関係がなくなってしまい、
選手が次第に試合に勝てなくなると思われるからだ。そうなると、勝てない試合はつまらないので、ファン離れがおきてしまう。
選手側も、ファンを大事にする名目で、能力に関係なく人気のある選手のみが試合に出場するようになると、選手間の競争がおこなわれなくなるので、個々の選手の能力向上が期待できず、さらに試合には勝てなくなる。
『かつて血の結束と闘争心と全体主義を打ち出して戦っていた地方球団が、次第に個を確立した者たちの集まりに変わっていった。』 (p.393)
落合の目指したプロとは、自立した個であり、自分の仕事に責任が取れる選手のことを指す。彼らが集まることで、初めて勝利を目指したチーム編成が可能となる。
その際、ファンも選手が自立するように後押しする必要がある。決して選手と依存しあってはいけない。なぜなら、依存すると、試合の結果に対する責任の所在が曖昧となり、
勝利が遠のくからだ。
チーム勝利のための必要条件は、選手だけでなくファンも自立していることである。
これが本書を読んで学んだことだ。
今月も興味深い本を紹介していただき、ありがとうございました。