投稿者 vastos2000 日時 2022年9月30日
本書を読んだことで、私の持つ「交渉」ということばの定義が書き換えられた。本書を読む前までは、交渉と聞くと、p5に書かれているように企業間のビジネス交渉を思い浮かべていた。書名から想像したのは、ビジネス交渉の場面や就職活動などの場面で役立つ交渉術のようなものを教え説く内容の本だと思っていたが、大部分は「交渉」ということばのイメージを一段か二段、レベルを上げるようなものだった。
本書は大学での講義がベースであるためか、若者に向けたメッセージが中心になっていた。
“世の中を動かすためには、自分ひとり力ではとても足りない。ともに戦う自分たちの「仲間」を探さねばなりません。(p34)”
20数年社会人として組織の中で働いている身で、この記述に対して思うことは、“世の中も会社(学校)も同じだ“ということだ。
数人で構成される小さな組織はともかく、10人以上が所属するような組織に対しては、一人の影響力はたかが知れている。自分と目的をともにする仲間がいなければ、世の中や会社を動かせない。(仲間がいても動かせるとは限らないが)
だからこそか、著者は読者に「コモディティ」になるなと説く。
“「今後、付加価値を持つビジネスはすべて交渉をともなうものになる」と考えています。(p65)”
“これからますます「誰にでもできる仕事」の価値は下落し、どんどんコンピュータに取って代わられることになるでしょう。(p70)”
上に引用した二つの文のうち、後者は特に実感がある。
現在、職場で私が課せられたミッションに、情報システム導入による業務の省人化がある。人件費を下げるため、定年等による欠員補充は極力控えて、情報システム導入などでカバーできることは機械(コンピュータ)に置き換えていこうという動きがある。
その中でワークフローシステムやRPAなどの商品を吟味しているが、その進歩はすさまじい。「こんなことまで自動化できるのか」と思うことがよくある。
そして紙からデータへの流れも止まらない。再来年には電帳法改正に対応しなければならないが、今後物理的な申請書や伝票は減っていくだろう。そうなるとそれらを運ぶ人手も不要になる。もちろん申請書や伝票はその形よりもそこに記されている内容のほうが大事だから、電子データでも事足りる。
そういった業務の効率化の先で生み出されたマンパワーはどこで発揮するべきなのか?
著者の主張では人対人のコミュニケーション(交渉)ということになる。私はこれには反対しない。損得の計算は、正しいデータがあればコンピュータにも「計算できる」かも知れない。だが、交渉相手がデータにないことを提示してきた時に正しく計算できるのだろうか?
他にも人間が関わるだろうと私が思うのは、「0から1の新しいことを生み出す局面」だ。これは(今のところ)コンピュータ・AIよりも人間のほうが得意とすることだろう。この事は今までの課題図書などを読んでいて強く感じることだ。
そして、本書のテーマである交渉だが、本書を読んであらためてハッとしたのが次の一文。
“交渉では、「意志決定する人間が相手と自分の2人いる」こと、そして「その両者が下す判断が同じ結論にならなければいけない」ところが、「指令」とも「ディベート」ともまったく異なる点となるわけです。(p105)”
この文の中の“両者が下す判断が同じ結論にならなければいけない”という点が、言われてみればそうだけど、意識していなかった点だ。
今日も仕事で契約書に判を捺したが、この契約も我々と先方が「この価格、この工期」と合意したから契約締結となったのであって、どちらかが「この条件は飲めない」となったら交渉決裂となっていた。
著者は“大事なのは、自分の立場ではなくて、相手側のメリットを実現してあげること。そのうえで自分もメリットが得られるようにすることです。(p131)”と言うが、私は少し違和感を覚える。相手側のメリットは大切だ。それと同じように自分側のメリットも大切だ。最終的には自分もメリットが得られるようにすると言っているが、両者は基本的に同列ではないだろうか。
一人(一社)に一度売ったら終わりの「コンチハ・サイナラ」型の商売であれば、自分のメリットを中心に考えればよいだろうが、そんな商売は長続きしないだろう。新規顧客を開拓し続けるのはずっと続かない。
逆に、リピートが発生する商品や年会費などが発生するような、『顧客を維持する型の商売』では、自分と相手の双方のメリットがポイントになるだろう。
だから、“みんなで小っちゃいパイを取り合って平等に不幸になるより、パイ全体を大きくする工夫や努力をすること。(p263)”と繋がるのではないだろうか。
最後に著者は、“私が本当にひとつだけ、これだけはみなさんに覚えておいて欲しいということを明記するならば、それは「言葉こそが最大の武器である」ということになります。”
と書いているが、これは、面と向かってのコミュニケーション(交渉)においてもそうであろうし、文書による発信やコミュニケーションにおいてもそうだろう。
そう感じるのは、私は課題図書の感想文を書くようになってから、自分の発する言葉や自分が書く文書の言葉に、以前よりも気をつけるようになった。同時に、他人が発する言葉に対しても、注意の量が増えた結果、相手の言葉を聞きながら「それはこういった方が伝わりやすいのに」とか、「その言い方は書き言葉としてはNGだけど、話し言葉としてはわかりやすいな」と思う機会が増えた。
これは、アウトプットを続けてきた効果だし、その成果が発揮される機会がすぐそこに迫っていると感じる。現行の形式での感想文は今回が最後となるが、7年に渡って毎月課題図書に取り組んで来たことは確実に私の力となった。
その成果はまだはっきりと目に見える段階にないが、結果を残すことができたら、皆さんに報告するつもりでいる。
今はこの場を借りて、しょ~おん先生はじめ、お付き合いいただいたみなさまに御礼申し上げたい。
今までありがとうございました。