投稿者 mkse22 日時 2023年2月28日
「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」を読んで
本書は、人口減少により今後の日本で起こることを整理した本だ。
IT技術者の不足や東京都の人口減少、自治体の消滅危機や高齢者人口が約4000万人など、正直明るい話は1つもなかった。「日本の未来が暗い」と言わざるを得ない根拠が淡々と並べられており、読み進めていけばいくほど、憂鬱な気分となった。
ただ、日本の未来が暗いのは、従来の考え方(例:人口増加を前提)をそのまま踏襲した場合であり、本書にあるように、戦略的に縮むことを前提に考えると、それほど暗い話にはならず、むしろ日本の未来は明るいと思ってしまった。
そのように考える理由を2つの例を通して説明する。なお、ここでいう戦略的に縮むとは『コンパクトで効率的な社会に作り替え』 (p.165) ることを意味する。
まず、2019年に起こる(起こった?)IT技術者の不足についてだ。
著者は人口減少により発生することの1つとして挙げていたが、現職がSEである私の感覚からすれば、もちろん人口減少も原因の1つではあるが、それよりもIT技術者の待遇の悪さが原因で起きたことだと考える。ひと昔前、プログラマ・SEといえば「給料が安く、残業が多い」といったイメージがあった。実際にその通りだったと思う。
IT技術者不足をきっかけに、現在のプログラマ・SEに対して待遇改善がなされる可能性があるため、私にはIT技術者不足はメリットがある。
ここで「IT技術者の不足は、個人としてメリットはあるかもしれないが、日本全体としてはデメリットなのではないか」という指摘があるかもしれない。
この指摘に対しては、IT技術者の指す意味により回答が異なる。
もし、「最先端の研究で世界をリードする」IT技術者という意味であればこのレベルのIT技術者は昔から不足しており、人口減少が原因で生じたことではない。日本のIT技術のレベルは世界と比較してかなり低いことは昔から言われていることだからだ。したがって、本書のいうIT技術者の不足は、この意味ではないと考える。
もし、「システム構築やプログラミングを担当する」IT技術者という意味であれば、(先程はこちらの意味で捉えていたが)、確かに不足しているように感じる。ただ、近年、クラウドやノーコードを筆頭に、SEやプログラマでなくても、プログラミングやシステム構築ができるような環境が整いつつあるため、クラウドやノーコードが利用可能であれば、これらを利用して非IT技術者がシステム構築やプログラミングを実施すればよい。そうすれば、IT技術者の必要な分野が減るため、IT技術者不足の問題が緩和する方向に向かうだろう。さらに、IT技術者は特定の分野に特化して専門知識を深めれば待遇改善を目指すことができるだろうし、日本全体のIT技術の向上にもつながるだろう。現在は、それほどIT技術が必要とされない仕事内容でもSEやプログラマが担当している感じがあり、これが待遇の改善がされない原因の1つとおもうからだ。
新技術を使ってIT技術者の担当領域を小さくすることでIT技術者不足を緩和すること、これが戦略的に縮むことの具体な例と考える。
次に、2025年の東京都の人口減少についてである。2025年で東京都の人口がピークとなり、以降は減少を始めると記載されているが、まずこれは問題ではない。むしろ減少したほうがメリットの方が大きい。なぜなら、現在の東京都の人口が多すぎて、既にその弊害が出ているからだ。特に弊害が出ているのは、朝の列車や商業施設そして公共施設である。列車や施設の収容可能人数と比べて、利用者数がはるかに多く、これらをピーク時に利用する際には、相応の待ち時間が発生するからだ。
だが、2019年からのコロナ流行により本社機能を東京都から地方に移転する企業やテレワークを導入する企業が急増した。このことが、朝の満員列車や商業施設の利用者数緩和に一役買っている。私もコロナ流行後には混雑が緩和されたように感じている。ここにさらに人口減少が加われば、さらに緩和されるだろう。東京都の持つ機能を地方に移したうえで都の人口も減らすこと、これも戦略的に縮むこと具体的な例だろう。
ここまでは2つの社会現象を例に、戦略的に縮むとは具体的にどうすることかを考えてきた。どちらも、だれかが一時的に金銭面などの負担を背負うことにはなるが長期的には日本経済の成長に貢献することになるだろう。
ここで、この戦略的に縮むという考え方を個人に当てはめてみる。本書には、個人への適用例として、働けるうちは働く、家の中をコンパクト化するといったことが記載されている。たしかに、働く期間が長ければ、年金の不足といった金銭的不安はなくなる。これらはよく考えると、私が普段考えていたことと同じだった。実は私はすでに戦略的に縮む考え方を実践していたのだと分かった。
今月も興味深い本を紹介していただきありがとうございました。