買うのがトクか、借りるのがトクか?

住宅についていつまで経っても議論になるのが、「買うべきか、借りるべきか」というテーマです。このテーマをネットで検索すると多くの意見が拾えます。買うべし論者は、「ローンが終わった後に資産になる」、「老後住む家の心配をしなくて済む」、「持ち家である事で信用が高まる」という理由を挙げますが、借りるべし論者は、「何十年もローンに縛られる」、「ライフスタイルが変わったらどうするのだ」、「気軽に引っ越しが出来ない」、「土地神話は終わったから資産価値は下がるだけ」なんて理由を挙げて反論します。

これ、どっちが正しいかではなく、どちらも(ウソをついていないという意味では)正しいのです。ここで戦後日本の経済状況を振り返ってみましょう。戦後のドサクサが一段落した後、朝鮮戦争をきっかけに好景気の波がやって来ます。途中紆余曲折はあるのですが、人口の増加や海外輸出の拡大、日本の高い生産性など様々なポジティブ要因に支えられ、バブル崩壊まで日本の経済は拡大して来ました。その結果、地方から都市部への人口の流入が続き、都市圏と言われるエリアでは、地価は一貫して騰がって行ったのです。これが景気という個人の努力ではどうにもならない波についての分析です。

こういう状況下ではどういう状態がオトクかというと、住宅ローンを組んで持ち家という資産に投資をするのがオトクなんです。だって土地、上物(建物)で1500万で購入した家が、25年経って住宅ローンが終わったら土地代だけで5000万円の価値が付いてしまったなんてことがフツーに起こったんですから。

用途別市街地価格指数の推移

このリンクを見るとビックリするんですが、昭和30年に100だった地価が昭和60年には6大都市で7800とかになっているんですね。日本全国の平均でも4100ですから、全国平均で土地は41倍になったという事です。それだけ騰がるのが分かっていたら借金をしてでも買った方がオトクでしょ?それがバブル以前の状態だったんです。ですから、当時苦労して家を買った、そして地価の値上がりでウハウハ言った方々は今でも「家は買った方がトクだ」という意識を引きずっているんです。

ところがこれ、バブル崩壊後は通用しませんから。同じ表を見るとわかるんですが、平成に入ってから地価はほとんど動いていないんです。正確に言えば少しずつ下がっているんです。これがデフレという事で、今は3000万で買った土地付き一戸建てが、25年後には土地部分で見ても安くなっているという状態なんです。これに上物(建物)の減価償却というか25年も経ったら木造住宅に価値はありません。減価償却で言えば木造の住宅は22年ですから。つまりかつては上物の価値がゼロになっても土地部分の値上がりだけで利益が出たという事です。しかしこれが今では土地も安くなって尚かつ上物は廃屋で無価値になるという事です。こういう状況では家を買うのは損だと言えますよね。

つまり、買うべきか、借りるべきかという議論をするのなら、その前に考えなきゃならないのは、これから先、地価はどうなるのか?特に自分が住もうと思っているエリアの地価はどうなるのか(これはつまり人口動向がどうなるのかから予測するのですが、たいていの自治体はこういう予測をしています)を知らなきゃ議論が出来ないんです。昨今の「買うか、借りるか」の議論はこの要素が完全に抜け落ちているものが多いのです。これからも地価が騰がる事が見込まれるエリアなら(大都市圏の一部に限られますが)投資する価値があるのかも知れません。逆に地方部ではさらに人口流出が続く事が予想出来るので、買うよりも借りる方がオトクという計算が出来るはずです。

ここまでは資産価値という観点からの考察ですが、もうひとつおカネ絡みで考えると、借りるという事は貸し主に一定の利益(これを利回りといいます)が行くという事です。家賃というのは大家から見たらビジネスですから仕入れ値であるローン返済に、固定資産税などの諸費用をプラスし(未だに賃貸の場合には固定資産税がかからないからオトクだ、なんていうアフォな事を言っている人がいますが、家賃の内数に入っているに決まっています)、さらに空室のリスク分を上乗せして決定されるのです。つまり、例えば自分で購入すれば毎月10万円のローンで済む住居に税金やら利益やらリスク分を載せて12万円で貸しだしているというのが賃貸住宅なんです。だから単純に同じ家に住むのなら借りるのではなく買ってしまった方がキャッシュフロー的には安く済むのです。

それなら買った方が良いのか?というと、安く済む分「縛られる」というリスクを背負う必要があるんです。縛られるというのはつまり、そこに住む事を止めて他の土地に行くために様々なハードルを乗り越えなきゃならないという事です。買ってしまった住居から移動するには、まずその家を売らなきゃなりません。(ダブルローンが出来る余裕のある人は貸し出して収益を得るというオプションもありますが)この売るというのがバブル崩壊後は辛いものがあるんです。だって地価はほとんどのところで購入時よりも下落しているわけですし、上物もドンドンボロくなって来るんですから購入時の7割とか6割の値段でないと売れないなんて事も良くある話です。それが分かっているから(ほとんどの場合は売ろうとしてそういう値段でしか売却出来ないという事を知って)引っ越しを諦める、単身赴任を選択するわけです。これが縛られるという状況です。その意味では家を買うという事は、住宅ローンが終わるまでその土地から移動しないと決断する事と同じなんですね。

つまり、携帯電話の2年縛りのようなものが、25年とか30年縛りになったと考えると分かりやすいと思いますよ。その分、同じ物件を家賃を払って住むよりも若干安く住めるという事になるのです。そういう縛りがイヤな人は、賃貸を気儘に移り住むという選択肢の方が人生に於ける満足度は高いでしょう。

では賃貸生活にリスクはないのか?という事ですが、これがひとつだけあると思います。それは歳を取って年金生活になった時に、移動の自由(つまり引っ越しの自由)が極端に制限される事と、移動しなくても毎月のキャッシュフローに占める家賃の割合が高まり生活を圧迫させる事です。前者は、大家の立場を想像すれば分かりますが、年金しかもらっていない、これ以外に収入の道がないという老人に駅から近くてファンシーな物件を積極的に貸すか?という話です。これは後者の話と密接に連動するんですが、年金生活に入ると、途端に収入が減るんですよね。現役世代の50%ももらっていれば多い方ですから。そうなるとおのずと選べる家賃の範囲が狭まって、結果として木造モルタル築35年のボロアパートみたいなところしか選べなくなる可能性が出て来るという事です。

これが持ち家だと(築年数によってリフォームは必要になるかも知れませんが)ローンさえ終わっていればキャッシュフローに影響は出ないんですから。家賃のつもりでリフォームをローンを組んでやれば10年やそこらはファンシーな状態を保てますしね。

人生とは所詮はリスクとリターンがパッチワークのように組み合わさって出来ているんです。このふたつをしっかりと理解をして、自分の人生の価値観と照らし合わせてどうするべきかを判断するべきです。住宅問題はサラリーマンにとって最も金額の高い問題であって、だからこそじっくりとこういう情報を入手して検討すべきなのですが、ネットに溢れている情報には焦点がずれたモノが多いので書いてみました。

 

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