サラリーマンを辞めて自営業者になって今年が6期目なんですが、6年も会社をやっているとついつい習慣になってしまうことがあります。それはおカネを使う時に、「これって経費になるのかな?」という振り返りです。
パソコンや携帯電話、各種ソフトウェアに自動車関連は揉めることなく経費になりますから、会社に利益が出ているのであれば躊躇せずに買えるようになりました。私の仕事柄、他の業種に比べて経費の算入範囲が広いのですが、それでも絶対に経費にならないというものがあります。それが腕時計なんですね。
壁掛けの時計や、目覚まし時計は経費になるんですが、腕時計はどうやってもムリなんですね。これが経費になるのなら、毎年高級アナログ時計を買い足してやろうかと夢想するんですが、こればっかりはムリなので、独立後ひとつも買っていません。
という経費の世界の決まり事があるのにも拘わらず、おカネ持ちの人って高級時計を買うのでしょうか?高級車は分かりますよ、だってほとんどの場合経費になりますから、つまり自分の財布は傷めずに買えるわけですから。でも時計の場合にはそうじゃないわけです。フツーそれならそこで高いものを買う理由がなくなっちゃうんです。よほどの時計好き、というのなら理解出来るんですが、ブランド名すら知らない人が買っちゃうわけです。
特に好きでもない、詳しいわけでもない、しかも経費ならないというジャンルに数十万から、ものによっては百万円以上のおカネを投じる理由がどこかにあるんじゃないかと思いませんか?おカネ持ちならではの、高級時計を買う理由があるはずなんです。
と考えて、いくつか仮説を立ててみて検証してみたら、どうもこれじゃなかろうかという理由が見つかりました。
おカネ持ちって結局のところ、「オトクなもの」が好きというか、そこにおカネを払うわけです。オトクというのは、払った以上の何かを手に出来るか、安く手に入るかという話です。高級腕時計を買うと買った後に払った以上の何かを手に出来るのか?高い時計だからってより正確に時を刻むなんてことはないんです。その方向性なら電波時計が最強ですから。機能が多いわけでもありません。そっちを欲しいのならiPhoneでも買った方が良いと思います。そうなると考えられるのが、雰囲気とか、満足度とか、見栄とか、そういう要素になるんです。で、これは確かにロレックスの金無垢の時計をジャラジャラ言わしていれば、ハッタリも利くし、場所によってはリスペクトもしてもらえそうです。でもそれって、「オレは見栄なんて張らないんだよ」という人には全く刺さらない要素ですよね。
私は永らくここで思考が止まっていたんです。だってもう一つの理由となる「安く手に入る」というのは最初から、「だって高級腕時計なんだから安くないじゃん!」と言って思考停止していたんですから。
そして今回、ちょこっとネットで調べてみたら、面白いことが分かったんです。
結論を先に書くと、実は高級腕時計って、イニシャルコスト(最初に掛かるおカネ)は確かに「高級」ということでお高いんです。ところが、これを数年使って中古で売る時の値段がべらぼうに高いんです。つまり、数年使って売った場合の戻ってくるおカネも高いので、実質的にはとってもリーズナブルに使えたことになるんです。
例を挙げて解説すると、高級腕時計の最右翼であるロレックスというブランドがあります。ここで人気のサブマリーナという海に潜ったことがないダイバーが好きそうな時計があるんですね。
面倒なことにこういう高級腕時計って、同じモデルでも微妙に細かいところに違いがあって、それによって中古の価格がガラッと変わるんですね。そういう特殊なケースで論じても意味が無いので、ロレックスの公式ページから現在フツーに売っているモデルを使って価格調査をしてみました。このサブマリーナというモデルでは、Ref116610というのが特別仕様でもない、一番出回っている数の多いヤツみたいなので、これで価格をみてみましょう。ちなみにこのモデル、2010年から売られているみたいです。
まずは誰でもやるカカクコムでの比較です。ここで検索すると最安値が825,000円程度であることが分かります。まさに高級時計にふさわしい価格ですな。セイコーとかシチズンで似たようなヤツを買うと50,000円でお釣りが来るんじゃないでしょうかね。
そして今度はこのモデルの買い取り価格をグーグルで検索すると、相場がなんと700,000円から730,000円となるんです。(ロレックスの買い取り専門業者のサイトをいくつか確認したんですが、だいたいこのレンジでした)
ここで注意が必要なのは、腕時計は自動車と違って「何年落ち」という概念がないことです。自動車なら初回登録から1年経つごとに価格が安くなり、税法上6年が経過すると簿価は1円になるんですね。当然中古の買い取り価格も登録した年から時間が経てば経つほど下落します。これを値落ちというのですが、腕時計にはその概念がほとんど無いんです。チャンと手入れをして(といってもキズを付けない、定期的にオーバーホールをする程度の話です)保存していれば、5年前に買おうが、6年前に買おうがほとんど買い取り価格に差が出ないんです。
つまり、ここで表示された中古の買い取り価格って、このモデルが発売された2010年製であっても、平たく言えば6年使った時計であってもこれくらいのレンジで買い取ってくれるということです。ってことは、もし83万円を出してこの時計を買ったとして、それから6年間使い続けてそろそろ飽きたからこれを売るか、となった時に70万円くらいで買い取ってくれるということですよ。その差額は13万円、これを6年で割ると、年にたったの2万円ちょい、でレンタルをしたのと同じ意味になるんです。
年にたったの2万円程度で80万円分のハッタリがかませるのなら、これはオトクと言えるんじゃないでしょうかね。
さらにスゴい事に、モデルによっては価格が変動して買値よりも高く売れてしまうモデルもあるんです。例えばロレックスのデイトナというモデル。
このうちRef116520というモデルは2005年に発売されたのですが、当時は117万円がカカクコムでの最安値だったんですね。それが今ではなんと1,546,000円!
http://kakaku.com/item/51609010179/pricehistory/
で、この時計の買い取り価格はいくらかと調べたら、110万円から125万円。ってことは、2005年に117万円で買った人が10年以上使って今売れば、買ったおカネがほぼ全額(場合によってはそれ以上)戻って来ることになるんです。
なるほど、こういう高級腕時計って動産としての側面があるんですね。ちなみに、ロレックス以外にも、パテックフィリップやフランクミューラーといったブランドでも同様の傾向が見られました。今の時代、銀行におカネを積んでおいても何もなりませんからねぇ。レンタル料を払うつもりで買い、数年後に売るということを繰り返せば、本当にリーズナブルに高級腕時計を楽しめるんですね。
おカネ持ちってそういうところに目端が利いているんですね。