大阪都構想に於ける住民投票について思う事。

すでにマスコミで再三報道されているように、注目の結果は残念ながら「反対」だったわけですが、賛成を投じた大阪市民は、早いところ住所を大阪市以外のところに移した方が良いんじゃ無いでしょうか。

橋下市長がなぜ都構想のような事を言い出したのか?この背景を理解しないで、「橋下が嫌いだから」とか「住民サービスが下がるから」とか「今のままで問題は無いから」とか「大阪市がなくなるのはイヤだから」なんて幼稚な理由で反対票を投じた人が相当数いたみたいですね。

彼が自分の権勢拡大や、自己利益のために都構想を打ち出したと思っている人(そういう報道に踊らされている人)がたくさんいる事に、私は暗澹たる気持ちを持つんですよね。ここまで日本人の知性は低下したのかと正直思いますよ。

政治家なんて売れっ子弁護士と比較したらやってられないくらい儲からない仕事なんですよ。収入はガラス張りだし、プライバシーは無くなるし、公人だからあれこれ書かれるし、でも注目されないと選挙に不利だし、そのくせ身分保障が無くて選挙に落ちたら全部を失うし、と列記していくと、こっそりと弁護士で稼いだ方が楽に生きられるはずなんです。彼が政治家にならなければ、浮気の報道もされなかっただろうし、彼の出自も暴かれずに済んだ(政治家で無ければタダの民間人ですから。民間人のそんなネタにニュースバリューはありませんから)はずなんです。

これ全部政治家になって彼が背負った負の荷物です。では正の荷物つまり、クッハー政治家やってて良かったぜ!と言えるようなものがあったのかというと、彼のキャリアから考えたらほとんど無いはずなんですよ。市長としての報酬は確かに我々庶民に比べれば高額ですが、テレビで売れっ子になった弁護士先生とは比肩出来るレベルではありません。退職金と合わせ技で良い勝負かも知れませんが、彼は市長の退職金も自分自身で半額にする条例を成立させちゃいましたから。ではこれ以外に美味しい蜜があるのか?

これが参議院議員の末端に潜り込んだ政治家だというのなら分かるんですよ。歳費をすべて合計すると家一軒分くらいのおカネが毎年もらえちゃって、さらに飛行機代やら新幹線代ももらえちゃうんですからね。そのくせ市長のように頻繁にマスコミに露出されるわけじゃないから、デートをしてもよほど派手な事をしなければフツーは問題になりません(最近問題になった方が2名ほどいましたが、彼らはやり過ぎたということですね)。それと政令指定都市の市長、就中テレビで顔と名前が売れちゃった政治家とは厳しさが違うと思うんです。オマケに彼は維新の党という政党の創立者でもあるわけですから。

政令指定都市の市長にどんな美味しい事があるのかというと、これのほとんどはカネ絡みですから。もちろん市長としての職務権限は強大ですが、それとて国会議員の役付きに比べたらたいした事はありません。所詮権限が及ぶのは市役所内だけです。オマケに地方自治体は予算面で国におんぶにだっこ状態で、国会議員に陳情しないと経営が出来ないようになっちゃってます。こんな状態で、ウハウハ言っている弁護士が市長をやりたいと言い出すからには、何か大きな大義のようなものがあるんじゃ無かろうか?と考えるのが知性ある人ですよ。(もちろん我々の知らないもっと美味しいチカラがあるのかな?と考えても良いですが、まさにそれは反対派が利用した手ですね)

その大義とは何か?これが不思議な事に、マスコミでは正確かつ緻密に報道されていないんです。それが大阪が抱えている巨額の負債と、その負債を生み出したメカニズムです。ここを見てもらうと分かるんですが、大阪って財政破綻した夕張市並みの経済状況なんですよ。市民一人あたりの市債は全国ダントツ首位の195万円

で、地方債の残高は大阪市だけで5兆円です。

これを同サイズの横浜市と比較すると差が際立ってきます。しかも横浜市は東京のベッドタウンとしてもうちょっと成長する余地があるのに対して、大阪市はこれからも成長が見込めるプラス材料がほとんど無いんです。その結果、5年で10%も市税が減少しているんです。

大阪市の市税推移

平成19年の6785億から、平成24年には6066億円に減少。

横浜市の市税推移

ここのP5に出ていますが、平成20年の7295億円が平成24年は7012億円へと4%の減少に留まっています。

そんなの人口が違うんじゃ無いの?と鋭い突っ込みをする人がいそうなのでデータを出しておきます。

大阪市の人口推移

ここからエクセルをダウンロードすると、平成24年の人口が267万人である事が分かります。

横浜市の人口推移

ここを見ると、同じ平成24年で369万人である事が分かります。

つまり、横浜市の方が人工的に言えばサイズが30%以上大きい都市なんですね。だから税収が多いのは当たり前。それなのに市民一人あたりの借金が一番多いってどういう事かと言うと、要するにムダ金を使いまくる体質があるという事です。それが如実に分かるのが職員数です。なんと大阪市には3.9万人もの市役所職員がいるんですね。ちなみに横浜市は2.8万人。これを市民人口でならすと、大阪市は人口1万人あたり147人の職員がいて、横浜市は同じく1万人あたりたったの77人しかいないという事です。これを他の市で見てみると、名古屋は120人、神戸は112人、京都は108人、札幌は77人、福岡は72人、仙台は94人とダントツで大阪市が多いんですよ。

そもそも大阪には区が24区あるんですよ。たった267万人しかいないところに24区っておかしくありません?人口が915万人いる東京都の区部で区は23区しかないんですよ。なんですか、この24区って。このそれぞれに区役所があって、そこには同じような仕事をしている職員がいるんです。これをある程度まとめて一つにした方が効率化されるってのは自明の理ですよね。せめて東京並みにすると大阪市には6.7区あれば東京の区部と同じ行政サービスが出来るはずなんです。それを訴えたのが橋下市長なんです。これのどこに問題があるんでしょうか?

会社でも同じですが、人件費って固定費の代表みたいなモノですから、これがムダに多ければ市の財政を圧迫させるのは当たり前で、これにメスを入れなきゃダメだというのは経営者なら誰でも分かる話なんです。

これについて言及しているテレビ報道って見た事無いんですよね。NHKなんかでも大阪都構想について報道する時には、「いわゆる大阪都構想問題については・・・」みたいな表現をするんです。なんだよこの「いわゆる」って?「いわゆる」という枕詞を使う時には、聞き手のほとんど全員が何が語られているのかを理解しているという前提が必要なんです。みんなが、ああそれね、と知っている時だけ「いわゆる」という枕詞で説明を省略出来るのです。でも大阪都構想については日本人の大多数、そして大阪市民でさえちゃんと理解されていないのに、なぜマスコミはこれを説明するという本来自分たちに課せられた職責を全うせずに勝手に省略語を使ったんですかね?こういうのを「不作為の作為」というのです。「いわゆる」という言葉を使わずに、「大阪市の二重行政によるムダを無くす事を問う大阪都構想」とチャンと説明する報道をしていたら、投票結果は反対になっていたと思います。つまりこれはマスゴミを総動員したネガティブキャンペーンに他ならないのです。なぜ大阪都なるアイデアが出て来たのか、その背景にどういう問題が横たわっていたのかについて日本人のほとんどは知らずに、橋下市長の出自やら彼の言動のおかしさについてだけが一人歩きをして投票されちゃったんですね。その問題の本質を理解せずに、賛成、反対を論じるのはナンセンスですよ。

追記すると、この稿を書いている5月18日のNHKクローズアップ現代で、この大阪都構想について解説をしていますが、これを投票前に放映していたらあと6000人くらいはひっくり返った(つまり賛成派が勝利した)と思います。このあたりNHKは巧妙というか姑息です。

特に悪質だったのが反対派で、彼らは殊更にこの根本問題を市民のそして国民の目から逸らそうとしていました。彼らが訴えていたのは、橋下市長のキャラクター問題、都構想の矛盾を衝く事、そして都構想が実現したら起こるかも知れないネガティブケースの誇大化、さらには今のままでも不都合は無いという変化を嫌うジジババの心情に訴える情緒的ストーリーでした。その前に、大阪が今どんな問題を抱えているのかを論じなきゃ話は始まらないんじゃ無いのとはならなかったんですね。だってこれって反対派には目を背けたい不都合な真実ですから。

橋下市長が訴えていた二重行政とはまさにこのムダ使いを止めようという事で、これに反対するのはこのムダ使いによって甘い汁を吸っている人だけのはずなのに、甘い汁を全然吸っていない市民ですらこれに反対したのは、反対派の戦略勝ちというところなんでしょう。

このままこのムダ使いが続けば(ここを見ると大阪市という組織がどれだけムダ使いをしてきたのか、それが職員の役得になっていたのかがよく分かります。これだけ逮捕者を出し続けている市役所ってありませんから。)遠からぬ将来、大阪市が財政再建団体に降格するのは確実じゃ無いかと思います。その時になって、市民サービスが減ったとか、生活保護の需給審査が厳しくなったとか、乗客の少ないバス路線が廃止されたとか文句を付けても遅いんですよ。今回の住民投票では悲しい事にそういう理由で反対した人がたくさんいる事が出口調査で分かっているわけですが、こういう人たちは大阪市が財政破綻したらもっともっとヒドい状態になるって事を知っているんですかね?

で、ここまで読んで、オレには関係無いよと思った大阪市民以外のみなさん。関係無いわけ無いじゃありませんか。冒頭書いたように、地方自治体というのは国の財政にぶら下がって生きながらえているんですから、大阪市が財政破綻したら我々が払っている国税からおカネが回されるって事ですよ。だから対岸の火事じゃ無いんです。それなのに、全国放送で橋下氏と反対派の中心人物を集めて徹底討論させようと考えた番組はほとんどありませんでした。これがマスコミの世論操作でなくてなんなんだ?と感じましたけどね。

今回の住民投票で、反対派が勝ったことにより、これからさらに守旧派は大手を振って好き放題の贅沢浪費三昧を行うんじゃありませんか。今まで通りカネを使う事が民意なのだ、くらいは言い出しかねません。そういう風土というか価値観が、この借金と市職員の逮捕者を生み出したわけですから。彼らがこころを入れ替えて、自らの力で自浄プロセスに入れるとは思えません。

ちなみに、大阪市が財政破綻をしたら一番ガミを食うのは周辺の地方自治体です。地続きなんですから、誰が好き好んで住民サービスの悪いところに住む必要があるんですか。賃貸ならなおさら東大阪、羽曳野、尼崎、門真、池田という周辺の市に引っ越すに決まってるじゃありませんか。破綻した夕張市だって平成19年の破綻時から平成25年には20%も人口が減ったんですから。がめついじゃなくて機を見るに敏な大阪市民が、大阪市を見捨てて他に移るというシナリオは彼らのビヘイビアを考えるととても自然です。それなのに、周辺自治体はこの大阪都構想については傍観を決め込んでいたのがもうひとつ理解出来ないところです。(積極的に反対をしていた市長もいて、この人の脳みそは一体どうなっているんだろうか?と思いましたけどね)私が周辺自治体の市長なら、大阪市が破綻したらワシらにも累が及ぶんやから、とっととダウンサイジングしてくれやって言いますけどね。

ここまで書いていたらむかっ腹が立ってきたので、投票結果についてひと言言っておくと、今回の投票結果はジジババによって支配されたのです。珍しく朝日新聞が面白い記事を今朝アップしました。

20・30代は6割賛成 都構想 朝日・ABC出口調査

これを読むと、実は今回の投票、20代から60代までは全世代で賛成が反対を上回っているんです。唯一反対が上回っているのが70代以上の高齢者層です。この要因は70代以上が人数も多く、投票率が高い事にあると論じている報道が多いんですが、ここで思考を終了させちゃダメだと思うんですよ。そもそもこれから社会のフルメンバーとしての地位を明け渡していく老人たちが、自分たちの世代が拵えた負の遺産を子や孫の世代に押しつけて良いのか?という議論が必要じゃ無いですかね。彼ら70代の方々は大阪市の財政破綻を見る事は無いかも知れません。早ければあと10年、どんなに頑張ってもあと30年後にはほとんどの方が鬼籍に入られるわけですから。そういう人たちが、この問題をこれから背負わなきゃならない世代の意見をねじ曲げる(60代以下は全世代が賛成なんですから)という事が許されるべきなのか?デモクラシーという制度としてこういう事態を看過して良いのかという視点は、これから活発に議論されてしかるべきだと思いますよ。次の世代に負の遺産を押しつけるというのは、原発問題でも根底に存在するキーワードなんですが、こちらでもこの部分に焦点が当たる事はありません。未だに稼働させる期間内に於ける安全性云々で再稼働させるかどうかが議論、報道されているお寒い状態ですからね。

それにしても6.7区しか必要ないところに24区も作って手厚い住民サービスをした結果財政破綻してしまう、そしてそれを先に死んでしまって後始末をしないだろう年代の人たちが、この制度を存続させたいと決めてしまったという事実は日本人が須く記憶しておくべき事だと思うんですよ。先ほど、「住民サービスが低下するから反対」と言った人に「悲しい」という形容詞を使って表現したのはそういう事です。

こんな結果になるんなら、もっと前からこのブログやメールマガジンで事の本質を伝えておけば良かったなあとちょっとだけ自戒する気持ちもあるんですよ。でもまさか本当にこういうバカげた結果になるとは想像すら出来なかったというか、そこまで大阪市民はバカじゃなかろうと思っていたんですけどね。

とはいえ、もう決着がついちゃったわけですから、大阪市は自らの意志で没落する事を決定したという事で、これからの推移を見守るしか無いんですよね。住民投票で賛成を投じた人は、自分の力でこれから来るカタストロフィーに備えてください。この流れが加速したらその「いつか」は必ず来ますから。その時に狼狽えなくて済むように準備だけはしておきましょう。私も橋下市長の人格には大きな問題を感じますが、それを差し引いてもこのアイデアは起死回生の素晴らしい一手だったと思いますよ。これがスポーツなら「ナイストライ!」って褒めてもらえるんですが、政治はそうでないところが冷酷だと思います。逆に、既得権益を死守した反対派は当分お屠蘇気分が抜けないでしょうな。彼の記者会見を見ていて感じたのは、「別にオレは今のままでも何も困らないんだけどさ。でも市民の多くは塗炭の苦しみを味わうよ。それをどうにかしてあげたいと思って政治家になったのに、これが伝わらないんじゃもう仕方無いよね」という徒労感で、その顔が印象的でした。

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