田舎暮らしの手引き その4

田舎暮らしで農業はムリだと悟れ

いきなり厳しい話ですが、田舎暮らしに憧れる人ってみなさん口を揃えて、

 

■ 無農薬の米や野菜を作って売ろうと思うんです

 

って言うんですよ。もうね、どこまで現実を知らないだって話です。

ハッキリ言いますけど、この設計図はほとんど形になりませんから。これでメシが食えるんなら、何年もプロの農家をやっている人がみなさんやりますって。田舎の農民だってバカじゃないんですから。そっちの方がラクで儲かるならとっくに手を出しているに決まってるでしょ。それをやっていないということは、その設計図を形にするのがとてつもなく難しいか、全然ペイしないかのどちらかなんです。

田んぼでも畑でも一度無農薬でやってみたら分かるんですが、農薬を使わないと夏の間は毎日が草刈りで終わってしまいます。私が借りている田んぼなんてたったの3畝しかないんです。(1畝は1/10反ね)こんな面積だと自家消費分のお米が出来るだけなんですが、それでも無農薬でやると、ひと夏でトータル20時間/人の労力が草取りに必要です。たったの20時間って思いますか?真夏の炎天下、1時間草取りをしたら汗が目に沁みるくらい出て来て、倒れそうになりますから。どんなに頑張っても2時間は連続で出来ません。その2時間を10回もやらなきゃならないんです。

お米を売っておカネを作ろうとしたら、最低でも3反から5反はやらなきゃならないんですが、3反って3畝の10倍ですから。つまり200時間/人の労力が掛かるんですよ。エアコンが効いた室内での労働なら法定時間プラス40時間の残業もわけないでしょうが、炎天下で2時間が限界という環境で200時間の労働をこなすのは大変だと思いますよ。

おまけに無農薬で作ったからといって値段が2倍になるわけじゃないんです。というか言いにくい話なんですけど、無農薬だからといってお米が美味しくなるわけじゃないんです。素人の人は食べ比べても違いは分からないと思います。

お米の味の違いって、農薬を使ったかどうかじゃなくて、収穫後に天日で干したかどうかで決まるみたいです。我が家のお米は天日干しをしているのですが、こうすると玄米で食べてもしっとりとした水分が残ったお米になります。都会では健康のために玄米を食べる人がいるんですけど、彼らがオーガニックのお店で食べる玄米って、コロコロと丸くて、パサついていて、噛むと唾液が全部吸われちゃう感じで、非常に食べにくい上に全然美味しく無いんですけど、天日で干した玄米はそういうことは全くありませんから。

じゃ天日に干すか、となったら必然的に稲刈りは手刈りになりますよ。バインダーという稲刈り専用の機械を使えばラクできますけど、新品で30万円くらいします。

http://www.jnouki.kubota.co.jp/product/combine/binderRJ/

 

手刈りを選んだ場合、3畝でオトナ5人で5時間、さらにこれを稲架に掛けるのに1時間が必要です。我が家の場合には毎年全国の塾生にお手伝いに来ていただいているんですが、人手がなければ1週間くらい掛かるかも知れません。3反とか5反となったら、倍の人数がいても3日ほど掛かることになりますね。これをやるとお米には88回以上の手間が掛かっていることが実感出来るでしょう。

そして話はここで終わりません。約ひと月天日で干したら、次は脱穀しなきゃならないんですから。残念ながら、ここからの機械化は出来ません。コンバインというのは稲刈りと脱穀を同時にやる機械で、脱穀だけやるわけにはいかないみたいなんですよ。となると、我が家のように足踏み脱穀機と、唐箕掛けをやらなきゃなりません。そのあたりはこのブログに説明があります。

 

脱穀、籾選(唐箕掛け)

 

3畝の田んぼからはだいたい100キロから120キロくらいのお米(というか籾)が採れるんですけど、これを脱穀するにはオトナ5人でやっぱり5時間、さらに唐箕掛けで2時間くらいが必要です。3反とか5反の場合がどうなるかは計算して下さいね。

つまり、無農薬で本当に美味しいお米を作ろうとしたら、田植え以外の機械化は出来ないということです。で、そうやって作ったお米が機械化で作ったお米の3倍の値段で売れるわけではないんですね。ちなみに、農家がJAに卸すお米の価格って知ってますか?品種にもよりますけど、10キロ2000円とかですから。先ほど私のところの田んぼから100キロ程度のお米が収穫出来ると書いたんですが、これを売ったら2万円になるんですね。20時間の草取りと(書いてませんけど、田植えは5人で2時間程度です)、稲刈り、脱穀、唐箕掛けで10数時間を掛けて20000円ですから。ここから苗のおカネとか、肥料やら、水利費とかが掛かるんですよ。

私がサラリーマン時代に、お客さんに請求する時間あたりの単価が1時間15000円程度でしたから、効率を考えたら全くペイしない話ですよね。

農薬を使って、機械でやって、肥料も化成肥料をたっぷりやる慣行農法では1反あたりの収量が8俵(480キロ)くらいになるそうです。それでも反当たりの売り上げ(利益じゃないですよ)が10万円ですよ。5反やって50万って、2倍の価格で売ったって儲かる商売じゃないのが分かりますよね。

こう考えると農家の方は良く300万円とかするトラクターやコンバインを買えるものだと思います。

さらにいえば、作ったお米を誰にどうやって売るんだ?という問題が残っているんですよ。末端の消費者に直接売る販路があるんなら、良いお米なら10キロ5000円以上で売れますよ。でもそんなお客さんをどうやって見つけて来るのか?という問題は残るんですよね。

 

農業でメシを食いたいと考えている人は、これらの問題をクリア出来るソリューションを持っていないといけないのだということに気付いて下さいね。

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